いとなみ

春秋花壇

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婚約破棄 水無月

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 梅雨寒の物悲しげな空は、しとしとと涙をこぼし、

まるで永遠にお日さまを見ることはないような

錯覚に陥らせる。

気分障害のわたくしハンナはこの季節がほんとに嫌い。

吐き気がするほどの頭痛に襲われたり、

重く垂れ込めた雲に気持ちがそっくり持っていかれてしまう。

「ああ、メンタル豆腐」

こんな日は、適当にイケメンを見繕って

ベッドではしゃぐほうが楽しい。

Bitchな女を演じてみるのもまた楽しからずや。

フランスの飾り窓の女も悪くはない。

今日は、どこかで適当に飲んで、

現地調達としゃれ込みましょうか。

軽いかるーい女。

いいねー。

DJ Bar LEGEND

新所沢にある小粋なDJクラブ。

洋服は、ストリート系にしてみた。

モノトーンの上下にオーバーサイズのTシャツ。

ダッドスニーカーにキャップ。

ビビットカラーの靴下。

別に黒人狙いじゃないんだけど。

踊ってるうちに、妙にテンションあがってきて、

一人でブレイクダンスしてた。

周りに取り巻きもできて、うふ、いい感じ。

「ハンナちゃーん、3番テーブルご指名でーす」

「はーい」

おいっ、ちがうだろう。

いくつかのスクリーンに映し出されて、

承認欲求が満たされる。

くるくる回る、ミラーボールとフラッシュ。

白がブラックライトに映し出されて、

とってもいい感じ。

カシスオレンジで喉を潤し、

ほろ酔い気分だった。

少しはなれたところから、視線を感じる。

あれっ、どこかで見たような……。

な、わけはない。

このお店、初めてだし。

こんなところに来るような友達はいない。

「素敵な踊りだね」

いきなりなんぱですか。

「とってもきれいだったよ、リズム感もいいし」

うーん、抱かれたい男ではないな。

「ぼくのこと覚えてる?」

いいえ、存じませんが……。

「そりゃあ、そうだよな。1.2度しか逢ったことないもの」

そうですか。覚えていたとしても、全く興味ありません。

「君、ハンナちゃんだよね」

え、なんでこの人、わたしの名前を知ってるの。

「随分、遊びなれているようだね」

それが何か?

「君、婚約してるよね?」

「はー?」

「覚えてないか。君、小学生だったものね」

「?」

「もしも、私が今、婚約を申し込んだらどうする?」

「?」

「あのう、おっしゃってる意味がまったくわからないのですが……」

せっかく、いい気持ちだったのに。

無粋なやつ。

「まあ、いいか。一緒に飲まない?」

「はあ」

「何飲む?おごるよ」

お酒くらいで……。そんなに安くないですからね。

「レディースキラー」

「あはは、面白いお嬢さんだ」

甘い、おいしい、ごくごくと飲み干してしまった。

そこまでは覚えてるのだが。

気が付いたら、

外は明るい。

小鳥がさえずっている。

朝チュンなのか?

えええええ、わたし、何にも覚えていない。

しかも、洋服着てないし><

びえーん。

「ごちそうさま、おいしかったよ」

「……」

「ハンナちゃん、君との婚約を破棄させてもらう」

「??」

婚約破棄の正当事由

[ほかの異性との性的関係]別の愛人と同棲し一方的に婚約破棄をしたもの。

[ほかの異性との婚姻]婚約相手以外の異性と婚姻したもの。

[差別]相手が被差別部落の出身者であることを理由として婚約破棄をしたもの。

一方で、婚約破棄した側に正当事由があるとされた事例として、次のものがあります。

[家出]相手が結婚式を前にして家出をして行方不明となったもの。

[非常識な態度]相手が社会的に非常識な態度をとることで、信頼を失ったもの。

[性的機能の欠陥]相手側男性の正常な性交能力がないもの。

「あのー、わたし、あなたとしちゃったの?」

「ああ」

「><」

何にも覚えていなかった。

初めてだったのに。

飾り窓の女とか言わなければよかった。

ぐすん。

はじめてくらい、ほんとに好きな人としたかったな。

「うそだよ」

からかうように微笑んでいる。

「あらためて、婚約しよう」

「え、あなたって」

「そう、君の婚約者の本郷直樹だ」

そのままお姫様抱っこされ、ベッドの冒険にGO。

キューピットの矢は、胸キュンする暇もなく、

二人のハートを見事射抜いたのでした。





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