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春秋花壇

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婚約破棄 睦月

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 蝋梅が咲き乱れ、透明感のある花弁からは、何とも涼やかな香りが漂っています。

冬雲、寒雲、凍雲、凄雲、蝶々雲、富士の笠雲、冬の雲。

お日様は恥ずかしそうにかくれんぼ。

幾重にも重ねた灰色の雲が睦月の空を織り成していく。

寒すずめが、舞い降りてきて、何かをついばんでいます。

ラジオ体操から帰ってきて、とっても爽やかな気分です。

カルピスソーダで喉を潤します。

「ぶはーー」

「やっぱこれだね」

これは、ビールを飲んでいるおやじ。

お口の中がシュヲシュワー。

舌の上転がる泡、あわ、アワーー。

この甘さ、この味。

のどを音楽隊が通ります。

しゅぱーつ、シンコウー。

しゅっしゅっ、ぽっぽっ。


今日、こし餡か京子思案。
「ドナルド、嫌!」と、怒鳴る土井や
マクドで甘クドく海女口説く
爺ちゃん、傍に居れば、蕎麦に入れ歯
ブーランジェリーでブー、ランジェリー。
リンゴ下さい!と言う隣国ダサい。
お腹痛いが青菜買いたい
「キムチ食った」と金、チクった
白菜を吐くサイは歯臭い。

にゃん

いいかげんにせえ。


わたくし、小椋 菜美15歳は、今日、前田 健さま28歳から婚約破棄されます。

まもなく3月で、16歳になります。

16歳になったら、結婚する予定でした。

気晴らしに、オンラインゲームでも

しようかと思ったのですが、

やっぱり楽しいわけはなく、

なんとなくネガティブな気分で満たされていきます。

「うーん」

何か楽しいことはないかなとユーチューブをあさっていたら、

https://www.youtube.com/watch?v=1veWbLpGa78

Coca-Cola: Happiness starts with a smile

こんな動画を見つけました。

だまされたと思って、見てみてください。

だまされたと思ってみてみてください。

笑いのパワーってすばらしいですよね。

どんどん楽しくなってきて、

もうおなかの皮がよじれるかと思うくらい、

笑い転げていたんです。

婚約破棄の理由は、別に好きな人ができたからということでした。

それならそれでお祝いしてあげよう。

わたくしは、前田 健さまに一度子供の頃にあっただけです。

わたくしはわたくしを

投げない。逃げない。見捨てない。

彼に会いに行って見ることにしました。

JKですから、当然、セーラー服で会いに行きました。

だって、今しか着れない服ですもの。

とても、清楚に見えるし、賢そうに見えるでしょう。

前田 健さまは、青山にある高層マンションにお一人で住んでいらっしゃいます。

アポイントをとったときに、体操服を持ってくるようにいわれたので、

持参しました。

このマンションには、トレーニングルームがありました。

もちろん、プールも。

前田 健さまに、軽く挨拶をした後、

体操服に着替えてくるように言われたので、

白いトレーニングウエアに、紺のブルーマー、

白の靴下、ナイキの白い靴で、

「じゃーん、お着替え完了。とぅー」

と、言ったら大笑いされて。

前田 健さまは、記憶しているイメージとは違いました。

線の細い文学少年だと思っていたのですが、

野性味のある堀の深いお顔立ち。

一緒にストレッチしたり、

ラジオ体操したり、ペアで準備運動したりして、

楽しいひと時を過ごしました。

「バンビみたいに可愛くてきれいだね」

少し目を細めて、わたくしをしげしげと

品定めしているのですが、なぜか下卑たいやらしさはなく、

不思議な人だなと思いました。

マシーンは特に胸筋に有効なボートこぎのようなものを

選びました。

そばで、励ましてくださっています。

どうしてそのマシーンにしたかというと、

恥ずかしいのですが、あせもができるくらい、

胸が大きいのです。

ぐすん><

それが終わると、背筋をするといいといわれ、

わたくしがうつぶせになって、彼がその上に乗り、

背筋の運動を50回くらいしました。

バランスが大切なのだそうです。

運動が終わると、プディックに連れて行ってもらいました。

制服だと、援助交際みたいで、いやだといわれるんです。

変な方ですよね。

だって、婚約破棄されるんですよ。

捨てる女にどうして、洋服を買い与えないといけないのでしょうか。

シンプルだけど、はんなりとした、

サーモンピンクのワンピースを買っていただきました。

春のときめきを感じられるような、

それでいて一本、凛としたものを感じ取れるような

そう、生き抜くための鎧。

もちろん、好きなものを選んでよいといわれたので、

わたくしが選んだものですけど、

そして、靴も選べといわれて、

5センチヒールの合わせやすい白い靴にしました。

大阪 食べ道楽。

京都 着道楽。

東京 履き道楽。

「靴の汚れは下着の汚れなんですって」

「へんなことわざ知ってるね」

塩で味付けされた言葉を添えます。

バックもと言われ、靴と同じような白い皮のバックにしました。

とっても使い安そうな、バックです。

コートもカシミアのオーソドックスですけど、

プレーンなロングコートを買ってくださいました。

さて、これで全身新しいお洋服がそろいました。

そのまま、六本木にある瀬里奈本店に行ったのですが、

けがにとステーキをご馳走してくださいました。

神戸牛サーロインは、きれいな霜降りで、見ているだけでも

楽しい時間でした。けがには、身を取ってくださって、

慣れないわたくしでも、困ることなく堪能できました。

かに味噌が、口の中いっぱいに広がって、

ああ、この世のパラダイス。

サラダもいただいたのですが、

湯むきしたトマトが、とってもおいしくてびっくりしました。

思わず、トマトの作り方を聴いたのですが、

「湯むきした後、砂糖少量と塩をかけて冷蔵庫で寝かせたもの」

だそうです。

お肉の感想を言われる方は結構いらっしゃるそうですが、

トマトに興味を示す人は、通だとほめていただきました。

「ほめられると嬉しいですよね」


さて、いよいよ、婚約破棄を言い渡されるのでしょうか。

婚約破棄されても、わたくしの価値は変わらない。

明るく楽しく元気よく、

いつもにこにこ元気な子です。

でも、やっぱりどきどきしています。

わたくしと彼があったのは、わたくしが小学3年生、9歳のときです。

彼は、21歳でまだ大学生でした。

「背の高い、色の少し浅黒い精悍そうな人」

という印象を受けたのですが、

「この人のお嫁さんになるんだよ」

と、家族から言われ、とても嬉しかったんです。

「さて、今日呼んだのは3月に式を控えて、

マリッジブルーになっていたんだ」

マリッジブルーとは結婚前や結婚後の時期に不安や嫌悪感を抱いたり、気持ちが沈んでしまったりすることを意味しています。 一般的に女性に多い現象と考えられていますが、男性でもマリッジブルーに陥ってしまうこともあります。

「?」

「だって、一度しか逢ったことない人とこれから一生連れ添うんだよ」

「余りに理不尽だと思わないか」

「?」

「今まで好きに使えていた時間もお金も愛情も

二人でこれからは使うようになるのに、

顔さえよく覚えていない人と……」

「覚悟はできております。破棄ですね」

「いや、予定通り、式は行う」

「?」

「男が一旦(婚約を)、約束したものを(勝手に)マリッジブルーです。(何言ってる)

(そんな簡単な話ではないでしょう?)ごめんじゃないでしょうに」

約束に対しての強い信念のようなものを感じます。

この人となら一緒に苦労してもいいかなって思ってしまっています。

だめですよね。婚約破棄されるのに……。

「今日一緒に時間を過ごして、感じたんだ」

「この人となら一緒にやっていけるって」

「なので改めてここで申し込みます」

「ぼくと結婚してください。時間を共有してください。

ぼくのそばでいつも笑顔でいてください」

この人は、小さな約束を積み重ねて行ける人。

この人なら信用できる。

わたくしは小さく、こくッと頷いた。

そのあと、さっきの動画を一緒に見て、

笑い転げてしまいました。

一旦、婚約破棄され、すぐに婚約ということで

ご了承いただけたでしょうか。

寒くなってまいりました。

もうすぐ、梅の季節となります。

お風邪など召されませんように。

ご自愛くださいませ。


ありがとうございます。






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