好きな人に会えないのはすごく寂しいけど 好きな人に「会いたい」と思われていないのはもっともっと寂しいよ

私の特別

「私の特別」

レオン・クロフォード。
その名を口にするだけで胸が熱くなる。彼は私の特別であり、私が生きる理由だ。だが、彼には家庭がある。それは重く、動かしようのない現実。私は不倫を望んでいるわけではない。ただ、彼の心に少しでも触れたい、その存在を認めてもらいたいだけだ。

秋が深まり、領地の収穫期も終わりを迎えようとしていた。私は領地の特産品である「星の果実」と呼ばれる青い小さな果物を加工したジャムの販路を広げるために、都市部の商人たちと交渉を続けていた。

レオンは私の隣国で商業を司る貴族であり、私が頼るべき唯一の協力者だった。彼の鋭い眼差しと的確なアドバイスに、何度も助けられてきた。

「エミリー、このジャムは確かに素晴らしい。しかし、ただ美味しいだけでは都市の競争に勝てない。もう少し商品の背景にあるストーリーを強調するべきだ。」

彼の指摘はいつも的確だった。星の果実がこの地でしか採れない希少性や、収穫の難しさ、農民たちの努力を商品に込めるべきだと言われ、私はその意味を深く噛みしめた。

「ストーリーですか……」

私は自分の生い立ちや、この果実に込めた思いを話しながら、彼に何度も意見を求めた。そのたびに彼は真摯に耳を傾け、アドバイスをくれる。

だが、彼が隣国に戻る夜、私はいつも耐えがたい孤独に襲われた。レオンの存在が大きすぎて、彼が去るとこの世界の色が一気に失われるようだった。

ある日、都市の商人との大きな交渉が控えていた。私は準備に明け暮れ、夜遅くまで書類を整えていた。その時、突然のノック音が聞こえた。

「エミリー、こんな時間まで何をしているんだ。」

そこに立っていたのはレオンだった。驚きと喜びが入り混じり、言葉が出なかった。

「あなたが……どうしてここに？」

「君が何か困っているんじゃないかと思った。それに、この交渉は君にとって大事だろう？少しでも力になりたくて。」

彼の言葉に胸が詰まった。私が必死に準備している姿を思い浮かべ、夜の山道を越えてきてくれたのだ。

「ありがとうございます……でも、本当に大丈夫です。私はこれを一人でやらなくちゃいけないんです。」

彼に頼る気持ちを抑えながら言ったが、レオンは首を横に振った。

「そういう強さが君の魅力だ。でも、君が努力していることに対して、僕ができる限りのことをしたいと思う。それだけだ。」

彼の優しさに触れ、私は言葉が出なかった。ただ、涙が静かに頬を伝った。

翌日の交渉は、彼の助けもあって大成功だった。星の果実ジャムは都市部での販売が決まり、新たな販路が広がった。だが、心の中にある空虚さは埋まらなかった。

レオンとの別れ際、私は意を決して言葉を口にした。

「私、あなたの特別になりたいんです。」

彼は驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「エミリー、君はすでに僕にとって特別だよ。ただ……僕がそれをどう伝えるかは、もっと考えなくちゃいけないね。」

その言葉が何を意味するのか、私にはわからなかった。ただ、彼の目に映る自分が少しだけ違って見えた気がした。

私はレオンの妻にはなれない。それはわかっている。だが、この地で彼の言葉を胸に生きていく中で、私はいつしか彼にふさわしい自分になれるのではないかと信じている。

星の果実ジャムは、私たちの絆の象徴だ。それを作り続けながら、私は彼の「特別」であり続けたいと願う。

いつの日か、彼がその気持ちをもっとはっきりと伝えてくれることを、心のどこかで期待しながら――。