好きな人に会えないのはすごく寂しいけど 好きな人に「会いたい」と思われていないのはもっともっと寂しいよ

転生令嬢の決意

転生令嬢の決意

目を覚ますと、いつもの天蓋付きベッドだった。転生してからずっと、ここが私の居場所だ。この世界は乙女ゲームの舞台で、私はその中でモブキャラとして生きている。

カトリーナ・レミントン――男爵家の令嬢という肩書きだけれど、貴族社会では大した地位ではない。舞踏会に参加しても注目を浴びることはなく、ただ場を埋める存在。それが私だった。

しかし、彼に出会った瞬間、私の心は揺れ動いた。

彼の名はレオン・クロフォード。この世界のゲームにおいて、ヒロインが攻略する相手の一人。ゲーム内では、どんな困難にも立ち向かい、最終的にはヒロインと結ばれる運命のキャラクター。そんな彼と、現実の世界で目を合わせたとき、私は彼に恋をしてしまった。

「君は、どんな未来を目指している？」

初めて彼に直接話しかけられたときのことを、私は忘れられない。華やかな舞踏会の中、彼は私のいる隅っこの席にふらりとやってきて、そう問いかけてきたのだ。

その時、私は答えに詰まった。ただ、頭の中に浮かんだのは、自分が彼にとっての「モブ」だという現実。

「未来……ですか。特に大した夢はありません。ただ、自分にできることを見つけたいと思っています。」

精一杯の答えだった。でも彼は、その言葉に興味を示したようだった。

「それで十分だと思うよ。できることを見つけるために努力する――それは、誰にとっても大事なことだから。」

彼の言葉には嘘偽りがなく、心の奥深くまで響いた。それからというもの、私は彼と少しずつ言葉を交わす機会が増えていった。

とはいえ、彼にとって私は特別な存在ではないことも、痛いほどわかっていた。彼が笑顔を向けるのはいつも、ゲームのヒロインであるセシリア。明るく無邪気で、誰にでも愛される彼女は、まさに「主人公」と呼ぶにふさわしい存在だ。

私はただの脇役。それでも、彼の目に映りたいと願う自分がいるのが悲しかった。

「どうして彼に想いを寄せてしまったのだろう？」

何度も自問自答したが、答えは出ない。ただ、彼と話しているときの温かい気持ちが忘れられなかった。

ある日、彼と再び話す機会があった。庭園の散歩中、偶然にも彼と出くわしたのだ。

「君とは、不思議な縁がある気がするね。」

彼が微笑む。その瞬間、私の胸は高鳴った。

「そうでしょうか。ただ、こうしてお話できるのは嬉しいです。」

すると彼は少し考えるような表情をした後、真剣な瞳で言った。

「君には、何か特別な魅力がある。まだうまく言葉にはできないけれど……。」

その言葉に、私は一瞬息を飲んだ。彼にとっての「特別」になれるかもしれない――そんな希望が胸に灯った瞬間だった。

それでも、現実はそう甘くはない。セシリアと彼の関係はどんどん近づいていき、彼の視線が私に向けられることは少なくなっていった。

だからこそ、私は決意した。

「今の私は彼にとって『モブ』だけど、この地で生きて、彼の特別になってみせる。」

自分を磨き、自分の価値を高めていくこと。それが、彼と対等な立場で向き合うための唯一の方法だと思った。

「お互いにリスペクトできる関係になりたい。彼にとって特別な存在になりたい。」

そう決意した私は、まず自分の領地に目を向けることにした。男爵領は小さいけれど、可能性に満ちている。農作物の改良や村人たちの生活を支える取り組みを始め、自分の手で領地をより良いものにしていこうと動き始めた。

日々は忙しく、気づけば彼に会う時間も減っていった。それでも構わなかった。私は私自身の力で、特別な存在になりたいから。

そんな私の取り組みが噂となり、いつしか彼の耳にも届いていたらしい。ある日、再び彼と話す機会が訪れた。

「君は本当にすごいね。」

彼はそう言って微笑んだ。その笑顔を見たとき、私は初めて少しだけ、自分の足元に確かなものを感じた。

「これからも頑張ります。」

その言葉が、いつか本当の「特別」へと繋がる一歩だと信じて。