名言

やれるかやれないかではなくて自分次第。

やれるかやれないかではなくて自分次第。

（大谷翔平）


やれるかやれないかではなくて、自分次第
高層ビルの屋上から見下ろす街並みは、まるでジオラマのように小さく、静かに広がっていた。冷たい風が肌を刺し、足元が少し震える。もし、この柵を越えてしまえば、すべてが終わる。こんなに簡単なことはない。

翔太（しょうた）は、自分の人生がどん底だと感じていた。就職活動は連敗続き、貯金は尽き、恋人にも振られた。全てが失敗に思え、日々を無意味に過ごしているような気がしていた。周りは順調そうに見えるのに、自分だけが取り残されている気がして、心が折れそうだった。

「もう、無理だ…」

小さな声が風にかき消された。目を閉じ、深く息を吸い込んだとき、背後から声が聞こえた。

「何をなさっているんですか？」

振り返ると、そこには見知らぬ老紳士が立っていた。落ち着いた雰囲気のスーツを着こなし、穏やかな微笑みを浮かべている。なぜか、その姿に違和感はなく、どこか心地よささえ感じた。

「…関係ないでしょう」

翔太は冷たく言い放った。だが、老紳士は少しも動じることなく、ゆっくりと近づいてきた。

「若い方が、そんな場所で一人物思いに耽っているのを見過ごすわけにはいきません」

「物思い、ね…」

翔太は苦笑を浮かべた。「これは、物思いなんかじゃない。決意だよ」

老紳士は優しく問いかけた。

「どんな決意ですか？」

その言葉をきっかけに、翔太は堰を切ったように、自分の思いを語り始めた。就職のこと、お金のこと、恋愛のこと…すべてがうまくいかず、すべてが重なって、どうしようもなくなっていた。自分の未来が見えなくなった、と打ち明けると、老紳士は静かに頷いた。

「辛かったですね」

その一言が、翔太の胸に響いた。今まで誰にも言えなかった弱音を吐き出せたことが、どこかで安堵をもたらした。涙が止まらなかった。

「…もう、どうすればいいかわからないんです。何をしても、うまくいかない。どうせ、僕なんか…」

老紳士は、翔太の目をじっと見つめた。

「やれるかやれないかではなくて、自分次第ですよ」

その言葉に、翔太ははっとした。まるで心に響いた音が鳴り響いたような感覚があった。

「自分次第…？」

老紳士は続けた。

「そうです。人生は、他人に決められるものではありません。自分がどう生きるか、全て自分次第なのです」

翔太は目を丸くしていたが、老紳士はさらに語り続けた。

「確かに、人生には様々な困難がつきものです。思い通りにいかないことの方が多いかもしれません。しかし、そこで諦めてしまうのか、それとも立ち向かっていくのか、それは全て、自分自身で決めることなのです」

翔太は言葉に詰まった。

「でも、僕には何もない。才能も、金も、人脈も…」

老紳士は静かに微笑んで言った。

「才能やお金、人脈は、後からでも手に入れることができます。しかし、最も大切なのは、諦めない心、そして自分を信じる心です」

翔太はその言葉が心に深く刺さった。初めて、他人に頼らず、自分の力を信じてみようという気持ちが湧き上がった。

「あなたは、まだ若い。無限の可能性があります。諦めてしまうには、まだ早すぎますよ」

老紳士の言葉が、翔太の中で響き続けた。これまで、何度も自分を諦めようとしたことがあった。しかし、今、確かに感じていた。このままではいけない、自分を変えなければならないという強い意志が湧いてきた。

「…ありがとうございます」

翔太は素直に感謝の言葉を口にした。老紳士は微笑み、肩を軽く叩くと、静かに屋上から降りていった。

その後、翔太はしばらくそこに立ち尽くし、深呼吸をした。空の青さが、これまで見たことのないほど広く、明るく感じられた。無意識に、手を柵から離すと、足を踏み出し、屋上を後にした。

まず、翔太はハローワークへ向かった。今まで避けてきた場所だったが、今日は違った。自分の足で、未来を切り拓いていこうと決めたのだ。

そこでは、様々な求人情報を目にした。今まで考えもしなかった分野にも興味を持ち、幾つかの企業に応募することを決めた。

その一方で、生活のためにアルバイトも始めた。規則正しい生活が、心身の回復を助けると感じたからだ。

数ヶ月後、翔太は小さなIT企業から内定をもらうことができた。大企業ではないが、自分のスキルを活かせる仕事だった。最初は大変だったが、次第にやりがいを感じ、毎日が充実していた。

ある日、街で偶然、あの老紳士と再会した。翔太は駆け寄り、感謝の気持ちを伝えた。

「あの時、あなたが声をかけてくれなかったら、今の僕はなかったかもしれません」

老紳士は穏やかな笑顔を浮かべて言った。

「私が言ったのは、ほんの少しのアドバイスです。大切なのは、あなたが自分自身で変わろうとしたことです」

その言葉を聞いて、翔太は改めて思った。「やれるかやれないかではなくて、自分次第」本当にその通りだ。自分の人生をどう生きるか、それは全て、自分自身で決めることなのだ。

その後も、人生には様々な出来事があった。嬉しいこともあれば、辛いこともあった。しかし、どんなときも、あの老紳士の言葉を心に刻んで前に進んでいく決意を持ち続けた。

「やれるかやれないかではなくて、自分次第」

その言葉は、今でも翔太の人生の羅針盤となっている。そして、これからも彼の未来を照らし続けてくれるだろう。空を見上げると、青空が広がっていた。翔太の未来も、きっと、この空のように、どこまでも広がっているに違いない。