名言

オフの力」

「オフの力」

夏の終わり、太陽が西の空に沈みかける頃、野球場は静寂に包まれていた。シーズンは終わり、選手たちの笑顔と汗が紡ぎ出した数々の試合が、もう過去のものとなっていた。

その時期は「オフ」。試合や遠征がないため、選手たちはそれぞれが個々の課題と向き合う時間だった。チームスポーツである野球では、練習や試合が中心となることが多いが、「オフ」は個人の力を育て、より高いステージへと繋がる時間だった。

「オフの時間が、僕を変える」

西野涼介は、二十歳の若手投手だった。彼は今年のシーズンで成績を残せたものの、まだまだ自分に足りない部分があると感じていた。チームの一員としての成績だけでなく、個人としてどう成長していけるか。そんなことを考えながら、涼介はこの「オフ」の時間をどう使うべきか悩んでいた。

「僕はどうすれば、もっと上手くなれるんだろう……」

そんな風に考えながら、涼介はグラウンドを見つめた。シーズンが終わって数週間が経った後のこの時間は、他の選手たちが休んでいる間に、自分だけの時間を作るチャンスだった。涼介は強く「オフに野球がうまくなる」と感じていた。

涼介のオフの過ごし方は、ただの練習ではなかった。身体を休めるだけでなく、技術やフォーム、そしてメンタルを磨くための時間だった。

まずは、ピッチングのフォーム改善に取り組んだ。大学時代に教わったコーチのアドバイスを基に、投げ方の細かい部分を見直し、より力強く、安定した球を投げるための調整を始めた。

グラウンドが使えない日には、筋力トレーニングや柔軟運動を行い、投球に必要な身体を鍛えた。

「肩を正しく使えば、もっとスピードもコントロールも良くなるはずだ……」

涼介は自分に言い聞かせながら、鏡を見ながらフォームの研究を重ねた。毎日のように投げることで、自分の体の使い方や限界に向き合っていた。これまでは、チームの指導や試合に集中して「やらされていた」練習だったが、オフの時間には自分で考え、自分で工夫することができた。

さらに、涼介は「オフ」の間に新しい投球術を身につけるため、専門書を手に取った。投球の理論やコントロールの向上法、メンタルトレーニングの方法。シーズン中には試合のプレッシャーやチームの勝利のためにやるべきことが多く、どうしても後回しになっていた部分を、この時間にじっくりと学んだ。

「技術と頭を鍛える時間は、自分を成長させる力になる」

涼介はその考えを胸に、毎晩遅くまで勉強を続けた。

ある日、友人の投手や野球仲間と共に自主練を行った。涼介は特訓用のブルペンで、何度も何度も投げた。すると、自分のフォームが安定してきたことに気づいた。球速は少しずつ上がり、コントロールも以前より改善していることが分かった。

「これだ……これなら、次のシーズンで絶対に勝てる。」

涼介の目には、明るい光が差し始めた。このオフの時間が、自分の「足りない部分」を補う最高の時間であることを実感した。

ある日の午後、涼介は父親と一緒にキャッチボールをしていた。涼介の父親は彼の野球への情熱をずっと応援してくれていた。

「涼介、オフをこんな風に使うことができているのはいいことだな。」

「うん。練習や試合だけじゃ気づけないことがあるんだよね。」

父親は涼介の成長を見守りながら、笑った。

「野球ってさ、結局は自分との戦いだよ。誰かに勝つとか、誰かを倒すとかじゃなくて、自分の限界を超えていくことだからな。」

その言葉が涼介の胸に深く刺さった。

「自分との戦い……」

涼介は頷きながら、心の中で決意した。

「オフにやってきたことを、シーズンでも活かしていく。もっと高みを目指して戦うんだ。」

涼介はオフの間に、自分だけの成長の種を蒔いていた。それは最初は小さな挑戦だったかもしれない。しかし、努力の種は必ず実を結ぶ。

次のシーズン、涼介は以前より自信に満ちた顔でマウンドに立ち、力強い投球をすることになる。その姿は、オフの時間に努力を積み重ねてきた彼の成長の証だった。

オフとは、ただの「休み」ではない。
それは「個人が自分自身を見つめ直し、強くなるための時間」。
涼介のように、オフに自分と向き合うことで、野球はもっと楽しく、もっと強くなれる。

そして、オフの時間は、選手たちにとっての最高の武器となっていく。