名言

いい時はいい、悪い時は悪い。そういう割り切りも大事かなと。ピッチャーの時もベンチでは自然体でいればいいんだと自分で思うようになりました。

いい時はいい、悪い時は悪い。そういう割り切りも大事かなと。ピッチャーの時もベンチでは自然体でいればいいんだと自分で思うようになりました。

（大谷翔平）


自然体の投手

田中颯（たなかそう）は高校野球界で名の知れたピッチャーだった。最速148キロのストレートに、キレのあるスライダーを武器に持つ颯は、チームのエースとして期待されていた。だが、最近は調子を崩し、試合で結果を残せない日々が続いていた。

「また打たれたか……。」

颯は試合後のベンチで、握りしめた帽子を見つめながら悔しさに耐えていた。ベンチでは監督や仲間たちが慰めの言葉をかけてくれたが、颯の胸中は晴れない。

「練習してるのに結果が出ない。俺はもう終わったのかもしれない……。」

ある日の練習後、颯は黙々とストレッチをしていると、控えのキャッチャーである小林翔太（こばやししょうた）が隣に座り込んできた。

「お前、最近ちょっと気張りすぎじゃないか？」

颯は驚いて小林を見た。「気張りすぎって？」

「いや、試合中のお前、肩に力入りすぎだよ。打たれるたびに顔が曇ってるし、ベンチに戻ってもその空気引きずってる。颯らしくないって。」

「颯らしくないって……。」

颯は自分のピッチングを振り返った。確かに最近は、結果を出そうと必死で力みがあった。打たれるたびに自己嫌悪に陥り、次の投球にも影響していた。

「お前さ、ベンチの時もっと自然体でいればいいんじゃないか？いい時はいい、悪い時は悪い。それでいいだろ？」

「……そんな簡単に割り切れたら苦労しないよ。」

小林は笑いながら肩をすくめた。「確かに簡単じゃないかもな。でも、結果に囚われすぎてお前のピッチングが台無しになるのはもったいないだろ。俺は颯の投球が好きなんだ。もっと気楽にやってくれよ。」

その言葉に、颯は少し救われた気がした。自分が頑張る姿を見てくれている人がいる。それなら、少し肩の力を抜いてもいいのかもしれない――そう思えた。

次の試合の日。颯は先発投手としてマウンドに立った。序盤からストレートが冴え、3回までは完璧なピッチングを見せた。しかし、4回に相手のクリーンナップに連打を浴び、1点を失ってしまう。

マウンドで颯は深呼吸をした。「いい時はいい、悪い時は悪い。」心の中で小林の言葉を繰り返し、肩の力を抜く。

ベンチに戻ると、監督が「どうする？」と声をかけてきた。

「もう少し投げます。」颯は自然な笑顔で答えた。その顔を見て、監督もうなずいた。

試合は最終的に勝利した。颯のピッチングは完璧ではなかったが、終わってみれば7回を投げ抜き、最少失点でチームの勝利に貢献した。

試合後、颯はベンチに座り、グラウンドを見つめていた。自然体でいることの大切さに気づいた彼は、これからも自分らしいピッチングを追求しようと心に決めた。

「いい時はいい、悪い時は悪い。それが野球ってやつだよな。」

颯の心は久しぶりに穏やかだった。