名言

悔しい経験がないと、嬉しい経験もない。

悔しい経験がないと、嬉しい経験もない。

大谷翔平


悔しさの先にあるもの

田中紗良（たなかさら）は、ベッドに寝転がりながら天井を見つめていた。今日のことを思い出すたび、胸の奥がチクチクと痛む。就職活動の最終面接。自信があったはずなのに、結果は「不採用」。

「私、なんでこんなにダメなんだろう。」

ひとりごちて、目頭を押さえた。悔しい。自分の力不足を痛感させられる出来事だった。面接官に緊張してうまく話せなかった自分を思い返すたび、自己嫌悪が襲ってくる。「もっと準備すればよかった」「落ち着いて話せばよかった」と頭の中で何度も反省するが、それはもう遅い。

部屋の片隅にあるスケジュール帳を手に取る。そこにはびっしりと書かれた予定やメモが並んでいる。ひたすら努力してきたつもりだった。それでも、結果がついてこない。

スマホを開いてSNSを見ると、同じ大学の友人たちが内定報告を投稿している。明るい笑顔とともに「やった！」と書かれた投稿が目に入り、紗良は思わず画面を閉じた。

「悔しいな……。」

そうつぶやいたとき、ふと大学時代の恩師、梅村教授の言葉を思い出した。

「紗良さん、悔しい経験がないと、嬉しい経験も薄っぺらくなるものだよ。」

それは、教授が卒業間近のゼミで語ってくれた話だった。大学時代、梅村教授は研究論文を何度も却下され、そのたびに悔しい思いをしてきたらしい。それでも諦めずに取り組み、やがて学会で評価されるようになった。そのとき初めて、本当の「嬉しさ」を感じたと言っていた。

「悔しさを感じるのは、目標を持っている証拠だよ。だから、その感情を大事にしなさい。」

紗良はその言葉を思い返し、少しだけ顔を上げた。悔しい気持ちは、確かに今の自分の中にある。それは、内定が欲しいという強い願いの裏返しなのだ。

「そうだ、これが終わりじゃない。」

深呼吸をしてから、紗良は新たなメモ帳を取り出し、次の就職試験に向けた計画を書き始めた。自分が弱い部分はどこだったのか、何を改善すればいいのかを具体的に洗い出す。そして、一つ一つ、それを克服していくための目標を立てた。

数カ月後、紗良は新しい会社からの内定通知を手にしていた。以前不採用だった企業とは違うところだが、自分の努力が実ったことに胸がいっぱいだった。

「やっと……やっと手に入れた。」

その瞬間、あのときの悔しさがふっとよみがえり、同時に、あれがあったからこそ今があると強く感じた。

悔しい経験があるからこそ、この嬉しさは何倍にも膨れ上がる。涙が頬を伝うのを感じながら、紗良は笑顔でその通知を抱きしめた。

悔しさは終わりではない。それは、新しい始まりの第一歩。