名言

160キロの夢

160キロを言い始めた時、周りは無理だろうと思っていたみたいですけど、
無理だと思われていることにチャレンジする方が、自分はやる気が出るんです


「160キロの夢」

「160キロなんて無理だろう。」
少年野球のグラウンドで、僕の言葉は仲間たちの笑い声にかき消された。監督も苦笑しながら、「まあ、頑張れよ」と言ったきり、特に期待している様子はなかった。

けれど、その時の僕には、それが何よりのエネルギーだった。「無理だ」と言われるほど、挑戦する価値がある。そう思ったんだ。

僕の名前は大谷航平。小学生の頃から野球一筋の生活を送ってきた。ピッチャーとしての才能はそれなりに認められていたが、周りと比べて特別なわけでもない。ただ、僕には誰にも負けない夢があった。

それは「160キロのストレートを投げる」ということ。

周りの誰もが笑う目標だったけれど、僕にとってはただの夢物語ではなかった。プロ野球選手になるためには、何か突出したものが必要だと信じていたし、そのためには「自分にしかできない武器」を手に入れなければならない。

だから、160キロ。それが僕にとっての挑戦だった。

第一歩
中学に進学すると、野球部に入部した。毎日ボールを握り、ピッチングフォームを研究した。学校が終わればすぐにグラウンドに向かい、夜は家の庭で黙々とシャドーピッチングを続けた。

けれど、初めのうちはなかなか球速が伸びなかった。中学3年生の頃、ようやく120キロ台を出すようになったが、まだ目標には遠く及ばない。焦る気持ちが募る中、父がこんな言葉をくれた。

「夢を叶えるには、遠回りが必要なときもあるぞ。今は急ぐより、基礎を固めろ。」

その言葉に従い、僕は筋力トレーニングに重点を置くようになった。体幹を鍛え、下半身の安定性を向上させることで、投球フォームも次第に安定してきた。そして何より、地道な努力を楽しめるようになった。

高校時代の壁
高校進学後、野球部の練習はさらに厳しくなった。周囲の選手たちもみな一流の実力を持ち、僕が抜きん出るのは簡単ではなかった。

「お前、まだ160キロとか言ってんのか？」
チームメイトの一人に冷やかされることもあった。でも、僕はその言葉を受け流しながら、心の中でこうつぶやいた。

「その『無理』を超えてみせる。」

練習後には、一人残ってピッチング練習を続けた。コーチからは、「練習のしすぎで壊れるなよ」と注意されたこともあったが、それでも手を抜く気にはなれなかった。

その努力が実を結んだのは高校2年の夏だった。練習試合の中で、僕のストレートが140キロを記録したのだ。数字が一歩ずつ目標に近づいていることに、僕は確かな手応えを感じた。

最後の挑戦
高校最後の夏、僕たちのチームは県大会の決勝戦まで進んだ。相手は強豪校で、全国大会の常連だった。試合前夜、僕は父にこう言った。

「俺、この試合で絶対に150キロを出す。」

父は一瞬黙った後、笑いながらこう返した。
「目標を忘れずに投げれば、結果はついてくるさ。」

試合当日、僕はいつも以上に落ち着いてマウンドに立った。相手打者たちはさすが全国レベルで、簡単にはアウトにできなかったが、僕は一球一球、全力で腕を振った。そして6回裏、カウント2-2から放った渾身のストレートが、スタンドからの大歓声を引き起こした。

「球速150キロ！」

スピードガンの数字を見た瞬間、涙がこみ上げた。夢の途中に過ぎないけれど、それでも一つの大きな壁を越えた気がした。

その後の未来
高校卒業後、僕はプロ野球の世界に進んだ。まだ160キロには届いていないけれど、挑戦は続けている。人から「無理だ」と笑われることに燃える性格は、今でも変わらない。

夢とは、他人の評価ではなく、自分がどれだけ本気になれるかで価値が決まる。そう信じて、僕は今日もボールを握り続ける。

いつかきっと、160キロのストレートを投げられる日が来る。その日を夢見て。