名言

人と同じこと。僕はそれが嫌いなタイプなんです。

人と同じこと。僕はそれが嫌いなタイプなんです。

大谷翔平


「僕だけの足跡」

夕暮れの空が茜色に染まる頃、僕はまた一人、学校の屋上にいた。周囲では部活動の掛け声や、下校する生徒たちの笑い声が響いていたが、そのどれも僕には遠い音に感じられた。

僕は昔から「人と同じこと」をするのが苦手だった。いや、正確には「嫌い」だった。みんなが同じ制服を着て、同じ教室で、同じ時間に授業を受ける。その画一的な流れに、息苦しさを覚えていた。

自分だけの色
例えば、体育の授業。サッカーの練習では、みんなが「ゴールを狙え！」と叫びながらボールを追いかける中、僕はわざと全然違う方向に走ったりしていた。チームメイトには怒られたけど、それでも「みんなと同じ動きをする」ことが、どうしても許せなかった。

同じことは勉強にも言える。先生が示した「正解」に向かってひたすら突き進むような授業スタイルが嫌いだった。自分で考えた別解を出したり、全く関係のない質問をしては先生を困らせたことも多い。

「お前、変わってるよな」
そう言われるのが、むしろ快感だった。

孤立と反発
だが、高校に入ると、それは少しずつ僕を孤立させていった。友達がみんな同じブランドのバッグを持ち、同じ話題で盛り上がる中、僕はその輪に入ることを拒んだ。人と同じことをするくらいなら、一人でいる方がマシだと思ったからだ。

けれど、孤独は静かに、そして確実に心を蝕む。僕の「人と違うことをする」という選択が、自分を守るための殻だったことに気づいたのは、つい最近のことだ。

転機
そんな僕に転機が訪れたのは、放課後の美術室でのことだった。担任の佐藤先生が「君にはここが合うかもな」と言って連れてきた場所だ。

「美術部に入りたいわけじゃないんですけど」と言いながら足を踏み入れた部屋には、数枚の未完成のキャンバスと、古びた絵の具セットが置かれていた。

「ここではね、人と同じことをしなくてもいいんだよ」
佐藤先生のその言葉が、僕の胸に響いた。

試しに筆を取ってみると、驚くほど自由だった。誰にも指示されることなく、好きな色を混ぜ、好きな形を描く。その解放感に、心が少し軽くなった。

僕だけの景色
美術室に通ううちに、僕は次第に自分の「違い」をポジティブに捉えられるようになった。他の誰かと同じでないことは、時に疎まれるけれど、それが僕の個性だと気づいたからだ。

完成した絵は、青と緑を基調にした抽象画だった。「何を描いたの？」と聞かれるたびに、僕は曖昧に笑う。説明するのは野暮だと思った。

でも、僕の中では答えは決まっていた。「人と違う景色」を描きたかったのだ。

新しい一歩
卒業の日、佐藤先生に礼を言いに行った。
「僕、まだ人と同じことが嫌いなんです。でも、それが僕の強みだって思えるようになりました」
先生は穏やかに頷き、こう言った。
「人と違うことを貫けるのは、強さだよ。でもね、時には他人の足跡を参考にすることも、成長には大切なことだから」

僕はしばらくその言葉を噛み締めた。たしかに、人と違うことばかりを選んでいても、何かを学ぶ機会を逃してしまうことがあるかもしれない。でも、それでも僕は僕の足跡を残していきたいと思った。

校門を出ると、強い風が吹いた。前を歩く同級生たちの姿が、遠くに見える。僕は彼らとは違う道を選ぶかもしれない。でも、どこかで交わる瞬間があれば、それも悪くない。

「人と同じこと」じゃなく、「自分だけのこと」を見つけた僕の足跡が、いつかどこかで誰かに届くようにと願いながら、新しい道へと歩き出した。