名言

自分がどこに行きたいかわからない人には、追い風は吹かない

自分がどこに行きたいかわからない人には、追い風は吹かない


迷い人の旅

風が強く吹く丘の上に、一人の若者が立っていた。名は悠人。彼はずっと、人生の道しるべを探し続けていた。

「自分がどこに行きたいのかなんて、わからないよ」

大学を卒業してから数年が経ったが、悠人は定職にもつかず、アルバイトを転々としていた。周りの友人たちはそれぞれの道を見つけ、誰かは会社員として働き、誰かは起業し、誰かは家庭を築いていた。だが悠人だけは、自分の進むべき道がまるで見えないままだった。

そんな中、ある日訪れたこの丘で、悠人は見知らぬ老人に声をかけられた。

「お前さん、どこへ向かうつもりだ？」

老人の問いに、悠人は答えられなかった。ただ、曖昧に肩をすくめるだけだった。

「どこへ行きたいのかわからないなら、追い風は吹かんぞ」

老人はそう言い残し、ふいに風の中へと歩き去っていった。その言葉が、悠人の心に引っかかった。

風が吹かない理由
それから悠人は、毎日のように丘を訪れるようになった。風が吹く日も、静かな日もあったが、どこへ向かうべきかわからない自分には何も変化がない気がした。

ある日、彼は再び老人と出会った。

「お前さん、まだここにおるのか。何か見つかったかね？」

悠人は小さく首を振った。「自分が何をしたいのか、本当にわからないんです」

老人は笑いながら言った。「それなら、試してみるんだ。風の向く方へ走るでもいい、逆風に立ち向かうでもいい。動かないと、風が追い風になるか向かい風になるかもわからんぞ」

その言葉に心を揺さぶられた悠人は、少しずつ行動を始めた。

動き出した日々
まずは目についたアルバイトを続けることにした。接客業は苦手だと思っていたが、試しにコンビニで働き始めた。お客との何気ない会話や、感謝の言葉をもらうことが少しずつ楽しく感じられるようになった。

その次は、昔好きだったカメラを手に取った。子どもの頃、父親のカメラで撮影をするのが好きだったことを思い出したのだ。休日には街や自然を撮影し、SNSに写真をアップするようになった。すると、少しずつフォロワーが増え、「素敵な写真ですね」というコメントをもらうようになった。

「もしかして、これが自分の進む道かもしれない」

悠人はそう思うようになった。

初めて吹いた追い風
ある日、SNSで知り合ったフォロワーの一人が、悠人にメッセージを送ってきた。

「あなたの写真が好きです。今度、私の店のポスターを撮影していただけませんか？」

それは悠人にとって、初めての「仕事」となる依頼だった。緊張しながらも、自分のカメラを持って現場に向かい、全力で撮影に取り組んだ。その結果、依頼主はとても満足してくれた。

その日、丘に戻った悠人は、久しぶりに老人に会った。

「どうやらお前さん、少しずつ風に乗り始めたようじゃな」

悠人は微笑みながら答えた。「最初はただ、言われた通りに動いてみただけです。でも、気がついたら風を感じるようになったんです」

自分の地図を描く
悠人は、完全に自分の進むべき道を見つけたわけではなかった。だが、カメラで人々の笑顔を撮ることが好きだと気づいた。そして、それを軸に自分の人生を作り上げていくことにした。

「老人さん、僕はまだ途中です。でも、今はどこへ向かうべきかを考えながら歩ける気がします」

老人は静かに頷き、言った。「風というのは、自分がどこに行きたいかを決めて初めて吹くものだ。迷うこともあるだろうが、地図を描くのをやめるな」

悠人はその言葉を胸に刻みながら、丘を後にした。彼の人生という地図には、まだ多くの空白があったが、そこに新しい道を描き込む決意をしていた。

自分がどこに行きたいかわからない人には、確かに追い風は吹かない。だが、一歩でも動けば、その風がどちらから吹いているのかを感じられるようになる。そして、その風はいつか、自分を目的地へと導いてくれる。