名言

僕はプロ野球選手になる

僕はプロ野球選手になる

大谷翔平


「夢の先に見たもの」

小学3年生の頃から、亮介にはひとつの夢があった。

「僕はプロ野球選手になる」

それは家族や友人だけでなく、学校の先生や近所の人たちにまで言い続けてきたことだ。そして、心の底からその言葉を信じて疑ったことはなかった。亮介はいつも野球の練習を欠かさず、学校が終わるとグラウンドへ駆け込み、打ち続け、投げ続けた。小さな体には似合わない、真剣な眼差しでボールを追いかける彼の姿に、周囲の大人たちも次第に彼の夢を応援するようになっていた。

中学に進学してからも亮介の情熱は変わらず、むしろその熱意はさらに増していた。野球部の練習に加え、彼は毎朝早起きして、近くの公園で自主練を積み重ねていた。週末には父と一緒にバッティングセンターへ行き、バットを振り続ける。少しずつ成果が見え始め、彼は地元の中学校でも名の知れた選手になり、強豪高校からもスカウトの声がかかるようになった。

高校に進学してからは、ますます自分の夢が現実味を帯びてきた。甲子園を目指す高校野球の熱気の中、亮介はひたすら練習に打ち込んだ。そして迎えた最後の夏、チームは見事に甲子園出場を果たし、亮介はそこで自分の実力を存分に発揮した。彼のプレーは注目を集め、ドラフト候補として名前が挙がるようになった。

しかし、プロ入りを目指して練習を重ねる中、亮介の心に初めて「不安」が影を落とした。プロのスカウトが彼のプレーを評価する一方で、彼の中で一抹の疑念が芽生え始めたのだ。自分が本当にプロの世界で通用するのか、果たして自分の実力がどれほどのものなのか。これまでただ一直線に「プロ野球選手になる」と信じて突き進んできた彼にとって、この疑念は初めての感覚だった。

大学野球の舞台に進むと、彼はさらに厳しい現実に直面した。周囲には才能に溢れた選手たちが集まり、彼と同じようにプロを目指すライバルたちが切磋琢磨していた。思うように結果が出ない日々が続き、いつの間にか亮介は、プロへの道が遠のいていると感じるようになっていた。

そんなある日、亮介は古くからの友人である翔と再会した。翔も小学生の頃から野球を続けていたが、高校でケガをして引退し、今はスポーツ関連の仕事に携わっている。久しぶりに話す中で、翔がふと口にした言葉が亮介の胸に刺さった。

「亮介、お前は昔から言ってたよな、絶対プロになるって。でも、プロになるだけが全てじゃないって、今なら分かるんだ」

その言葉に亮介はハッとした。彼は小学生の頃からプロ野球選手になることしか頭になかった。それが自分にとっての唯一の道であり、夢であり、目的だった。しかし、翔の言葉を聞いた瞬間、亮介の中で何かが揺らいだ。

「プロになるだけが全てじゃない……？」

それからの日々、亮介は自分に問いかけ続けた。果たして自分の夢とは何なのか、プロになることが本当に自分の幸せなのか。練習の合間に、彼は立ち止まって考える時間が増えた。

そして迎えた大学最後のリーグ戦。亮介はプロのスカウトたちが見守る中、全力でプレーした。しかし、結果は思わしくなく、スカウトからの声は届かなかった。亮介はプロへの道を断念することを決意した。

それでも亮介は、野球を嫌いにならなかった。むしろ、これまでとは違う視点で野球を見つめるようになっていた。そして彼は、新たな道を見つけた。少年野球のコーチとして、未来の選手たちを育てることだった。

「プロにはなれなかったけど、夢を追いかけたことに後悔はない」

小学生たちに囲まれながら、亮介は自分の過去の姿を重ねて微笑んだ。夢を信じ、全力で生きてきたからこそ、今度は自分が夢を持つ子どもたちを支える立場になることに意義を感じていた。

亮介は、少年たちにこう語りかける。

「みんな、自分の夢を信じろ。先入観にとらわれず、自分ができると思ったことを信じて進むんだ。プロになるだけが全てじゃない。でも、自分を信じて突き進むことが、夢のその先へと続く道を開いてくれる」

亮介の言葉に、少年たちは目を輝かせて頷いた。彼らにとっての夢が何であれ、亮介が示したように、全力で突き進む勇気を持って歩んでいくのだろう。

亮介は自分の夢の「その先」にある幸せを見つけた。