名言

別に力の差はないんだから見下していけ。

別に力の差はないんだから見下していけ。

大谷翔平

「見下して勝て」

グラウンドに入った瞬間、颯太は思わず口を開けた。相手チームの選手たちが、練習のウォーミングアップをしている。どの選手もみな、自信に満ちあふれ、プロのスター選手そのものだった。颯太が憧れてきた選手も何人かいた。テレビや試合で見てきたスターが、目の前にいるのだ。

「すげえ…」

心の奥から浮かんだその一言に、自分でも少し驚いてしまった。

「おい、颯太！」

横から鋭い声が飛んできた。見ると、キャプテンの隼人がじっとこちらを見ている。

「『すげえな』なんて思った時点で負けだぞ。俺たちはここに勝ちにきてんだ。別に力の差なんかねえんだから、見下していけよ」

その言葉に颯太はハッとした。彼らが相手だと無意識に感じていた「高い壁」。しかし、隼人の目には、そこに壁なんて存在しないかのように見える。颯太はすぐに視線を戻し、深呼吸をした。自分たちだって彼らに劣るわけではない。いや、ここで勝つために来たのだ。そう思い直すと、自然と体に力がみなぎってくるのを感じた。

試合が始まり、颯太のチームは次々と攻めていく。相手チームがスーパースターだろうが、彼らも人間に違いない。颯太は、隼人の言葉を胸に刻み、一球一球に集中した。そして、迎えた自分の打席。颯太はバットをしっかりと握りしめ、目の前のピッチャーを見据えた。

「別に力の差なんてねえんだ。俺だってやれる。」

そう自分に言い聞かせた瞬間、ピッチャーが渾身の速球を投げ込んできた。颯太はその球を捉え、鋭い打球が外野へと伸びていった。観客の歓声が上がり、ボールがスタンドに消える。颯太の心に、自信と喜びが湧き上がってくる。自分は、憧れているだけではなく、同じ舞台で戦い、勝つことができるのだ。

ベンチに戻ると、隼人がにやりと笑っていた。

「ほらな。相手がどんなにすごいと思っても、こっちは見下してやるくらいで丁度いいんだよ。」

隼人のその一言に、颯太も力強くうなずいた。試合が続く中で、颯太のチームは相手に臆することなく、むしろその一つ一つのプレーに勝つための執念を見せ続けた。颯太も、もう憧れの眼差しではなく、ライバルとして彼らを見据えていた。

試合の終盤、颯太のチームは僅差でリードしていた。相手がスター選手だからといって、勝利を譲るつもりはない。颯太は、隼人の言葉が胸に刺さったまま、最後の守備に立ち向かった。アイツらにすごいと思わせるんじゃない、自分たちがすごいことを証明する番だと、そう思いながら。

試合終了のホイッスルが鳴り、颯太のチームが勝利した。グラウンドに立った颯太は、全身で達成感を味わった。もう目の前の選手たちをただの「憧れ」として見ていない。自分も同じ土俵に立ち、彼らと互角に戦った証だ。

試合後、隼人が肩を叩いてくれた。

「お前、ちゃんと見下してやったな。」

颯太は少し笑いながらうなずいた。これからも、どんな相手であっても「すごい」と思う前に、まずは超えるべき存在として見据えようと、心に決めた。