名言

憧れるのをやめましょう

憧れるのをやめましょう。

大谷翔平

「憧れを越えて」

グラウンドに立つ涼太の心臓は、高鳴る音を抑えられなかった。目の前に見えるのは、プロ野球のスーパースターたち。ファーストにはパワーと経験で圧倒的な存在感を放つゴールドシュミット、センターには圧倒的な実力を誇るマイク・トラウト、外野にはその俊足と守備力でファンを魅了するムーキー・ベッツ。どの選手も、涼太が幼い頃から夢中になって見てきた憧れの存在だ。

「すごいよな…」

そう思う自分を、涼太はぐっとこらえた。自分の心に浮かんでくる憧れの感情を抑えつつ、ふと周りを見渡す。チームメイトたちもまた同じような気持ちでいることが分かる。彼らもきっと、幼い頃からテレビの中で見てきたヒーローたちと一緒にグラウンドに立つこの瞬間を待ち望んできただろう。

しかし、そんな涼太の肩に、キャプテンの智也がそっと手を置いた。

「涼太、今日だけは憧れるのをやめよう。あいつらを超えるために、俺たちはここに来たんだ。」

智也の言葉は、涼太の胸に鋭く響いた。憧れの存在だからこそ、その先を目指さなければならない。プロで活躍する夢を叶えるためには、彼らと同じ舞台でただ憧れるのではなく、挑む存在にならなければならないのだ。

試合が始まり、緊張が一気に高まる。バッターボックスに立つ涼太の前に現れたのは、ベッツの守備する外野だった。涼太は無意識に握ったバットに力を込め、自分に言い聞かせた。

「今日だけは、憧れじゃなく、ライバルだ。」

ピッチャーの投げた速球が唸りを上げて迫ってくる。涼太はそのボールに全神経を集中させ、スイングした。バットがしっかりとボールを捉え、鋭い打球が飛び出す。外野の深い位置にあるベッツが全力で追いかけるが、ボールはフェンスを超え、そのままスタンドに吸い込まれていった。

歓声が上がる。自分がやったのだという実感が、遅れて涼太の中に湧き上がる。憧れてばかりの自分ではなかった。彼らに勝つために、涼太は確かに「超える」ために一歩を踏み出したのだ。

ベンチに戻ると、仲間たちが満面の笑みで迎えてくれる。智也も手を叩きながら、「お前、やったな」と軽く背中を叩いてくれた。

その後も涼太は、一球一球に集中し、スター選手たちに食らいついていった。ベッツが俊敏に飛び込んでキャッチする様子や、トラウトの強烈な打撃に苦しむ場面もあったが、彼は心の中で繰り返し言った。

「今日だけは、憧れじゃなく、ライバルなんだ。」

試合が終わる頃には、涼太の心には新たな自信が芽生えていた。憧れの人たちと同じ舞台で戦い、互角に渡り合うことができたのだ。この経験が、自分がさらに強く成長するための第一歩であることを彼は感じていた。

試合後、敵味方関係なく、選手たちが肩を叩き合い、健闘を讃え合う場面があった。そこにベッツが現れ、涼太の肩に手を置いた。

「ナイスプレーだったよ。これからも頑張れ、ライバルとしてな。」

その言葉に涼太は、ただ黙ってうなずいた。彼の中で「憧れ」は「目標」へと変わっていく瞬間だった。そして、彼は心の中で新たな決意を固めた。

「もう一度、いや、何度でもこの舞台に戻ってきて、あの人たちを超える存在になろう。」