名言

忍耐は辛し、されどその実は甘し

忍耐は辛し、されどその実は甘し

暗い土間の片隅で、若者ケイジは固く手を握りしめていた。彼の指先は泥にまみれ、爪の隙間には乾いた血がこびりついている。彼が選んだこの農家での働きは、想像を絶する苦しみをもたらした。太陽が肌を焼き、長く続く作業で腰も肩も痛む中、彼はただひたすら耕し続ける日々を送っている。

毎日、彼を見守るかのように作業場に現れる老人、タケシは、苦しむケイジにひと言、ふた言、たわいのない言葉をかけるだけだった。しかし、ある日タケシがぽつりと語りかけた。

「忍耐は辛し、されどその実は甘し、って言うんだよ。」

その言葉を聞いたとき、ケイジは、無理に笑おうともしなかった。日々の苦労が報われるなどという保証があるわけでもない。だが、なぜかその言葉が胸にひっかかり、日々の生活を変えはじめた。朝、土の匂いを嗅ぎ、草むらを歩き、夜には畑の先で輝く星を見上げる。辛い日々の中でふと感じる充足感――そんな微細な瞬間が彼の心に少しずつ灯をともしていった。

時間が経つにつれ、ケイジは畑の作業に少しずつ慣れていった。指先は厚い皮で覆われ、筋肉も強くなり、作物の成長を見るたびに不思議と喜びを感じるようになった。夏が終わり、秋が訪れた頃、彼が苦労して育てた作物が次々と実をつけ始めた。その豊かな色合いと香りが畑に満ちるとき、ケイジの心にもまた、一筋の光が差し込んだ。

収穫の時、タケシは初めて手伝いにやってきた。無口な彼が黙々と収穫する姿を見て、ケイジもまた言葉なくその手伝いをする。作物を一つ一つ摘み取るたびに、彼は過去数ヶ月の辛苦を思い返した。

「辛かったかい？」とタケシが突然問いかけた。ケイジは少し驚いたが、頷いた。そしてしばらく沈黙の後、こう返した。

「正直、逃げたくなることもありました。でも、こうして実ができるのを見ていると……少しだけ、自分も役に立てた気がします。」

タケシはケイジの肩を軽く叩いた。「そうか、それなら良かった」とだけ言い、再び収穫作業に戻った。その言葉には、長い年月を経て身についた何かが宿っているかのように、どこか温かみがあった。

収穫を終えた夜、タケシとケイジは畑の端に並んで腰を下ろし、無言で空を見上げていた。あの星空もまた、ケイジが見続けてきた辛くも美しい景色の一部であり、彼を支えてきた存在であった。

その夜、彼は確かに感じていた――「忍耐は辛し、されどその実は甘し」という言葉の真意を。忍耐の末に見つけた甘さは、単に実った作物だけではなく、彼自身の心に刻まれた充実感とともに、これから先の未来にも灯をともすものだった。