名言

逢危須棄(危うきに逢えばすべからく棄てるべし)

逢危須棄(危うきに逢えばすべからく棄てるべし)　

危険な石は早めに棄てる

危うきに逢えばすべからく棄てるべし
深い森の奥に、古い伝説が残る村があった。村人たちは「危うきに逢えばすべからく棄てるべし」という言葉を大切にし、危険な物や事柄からは早めに距離を置くよう心がけていた。村には、特に忌み嫌われる「危険な石」があった。誰もがその石を見たことはないが、言い伝えによれば、触れた者は必ず不幸を招くという。

村の外れに住む青年、健太はこの言葉を何度も耳にしていた。だが、彼は常に冒険心にあふれ、危険なものに興味を持っていた。特にその「危険な石」に対する好奇心は尽きなかった。村人たちが恐れ、避けるものにこそ、何か特別な意味が隠されているのではないかと考えていたのだ。

ある日、健太は友人たちと共に森へ出かけることにした。彼は「危険な石」を見つけ出し、その真相を確かめる決意を固めていた。友人たちは彼の考えを心配しながらも、彼を止めることはできなかった。

森の中を進むうちに、日が落ち始め、薄暗くなった。だが、健太は興奮していた。「もう少しで見つけるはずだ」と、彼は友人たちを引き連れて前へ進んだ。

しばらく進むと、突然、目の前に奇妙な光が現れた。そこには、黒く光る大きな石があった。友人たちは恐怖を感じ、立ちすくんだが、健太は興奮を抑えきれなかった。

「これが、噂の『危険な石』だ！」と健太は叫んだ。彼はゆっくりと石に近づき、その表面を触れた瞬間、凍りついたように動けなくなった。

「健太！」友人たちの叫び声が響いたが、健太の耳には届かなかった。彼の目の前に映る光景が変わり始めた。周囲の森が歪み、彼の心の奥に潜む恐れが現れ出てくる。彼は様々な不安や悩みが具現化した幻影を目の当たりにした。将来への不安、愛する者を失うことへの恐れ、孤独感。それらが彼を圧倒し、心を蝕んでいった。

「逃げろ、健太！」友人の一人が叫び、彼を引き戻そうとしたが、健太は動けなかった。彼の心に流れる「危うきに逢えばすべからく棄てるべし」という言葉が、今まさに真実として響いていた。

その瞬間、彼は意識を失った。

目を覚ますと、健太は森の中で倒れていた。周りには友人たちが心配そうに彼を見つめていた。彼は自分が「危険な石」に触れてしまったことを思い出した。あの恐怖に満ちた幻影が、彼を襲ったのだ。

「大丈夫か？」友人の一人が尋ねる。「お前、急に倒れたから心配したぞ」

健太はうなずき、ゆっくりと立ち上がった。「あの石は、やっぱり危険だった。触れてはいけないものだ」

その言葉に、友人たちは安堵の表情を浮かべた。健太は深い息をつき、心の中で思った。「危うきに逢えばすべからく棄てるべし。これが本当に意味することを、身をもって理解した。」

村に戻ると、彼は村人たちに自分の体験を語った。村人たちは彼の話を真剣に聞き、「だから危険な石を避けるのが賢いのだ」と頷いた。

それからというもの、健太は村人たちと共に「危険な石」の存在を恐れ、避けるだけでなく、その教訓を後の世代に伝えることを心がけた。彼の体験が、村の教えの一部となり、村人たちは再びその言葉の大切さを思い出した。

時が経ち、健太は村の長老となった。彼はいつも子供たちに語りかけた。「時には好奇心を捨て、危険を避けることが大切だ。無理をして、得られるものは少ないからだ」と。

その教えは村に根付き、次第に「危うきに逢えばすべからく棄てるべし」の言葉は、村人たちの心に深く刻まれていった。健太は、あの「危険な石」がもたらした教訓を通じて、真の知恵を得たのだ。