名言

棄子争先（子を棄てて先を争え） つまらない石は捨てて、先手をとる。

棄子争先（子を棄てて先を争え）
　　つまらない石は捨てて、先手をとる。


棄子争先

静かな山里の碁会所では、村の碁士たちが日々、互いに腕を磨いていた。特に注目を集めていたのは、若き才能・翔太と、経験豊富な名手・和也の対局だった。二人は異なるスタイルを持っており、翔太は大胆で攻撃的、和也は緻密で慎重なプレイを好んでいた。

その日、対局が始まると、翔太は早速、攻めの手を仕掛けた。彼は初手から和也の陣地に大胆に食い込む。しかし、和也は冷静にその動きを受け流し、自らの石の配置を整えていた。翔太は攻め続けるが、次第に彼の手は少しずつ消耗していく。

「棄子争先、つまらない石は捨てて、先手を取れ」と、翔太は心の中で唱えた。彼は一つの小さな石を犠牲にして、より大きな局面を有利に進めようと考えていた。和也はその意図を察知し、翔太の一手に対して即座に反撃を開始する。

翔太はすぐに攻撃を続けようとしたが、和也の守りは堅固だった。和也は翔太の小さな石を狙い、彼のリズムを崩そうとする。翔太はその瞬間、心のどこかで自分の策略に疑念を抱く。捨てたはずの石が、逆に自分を縛っているように感じ始めた。

思い悩む翔太に、和也が冷静に言った。「無駄な石に執着するな。捨てるべきものは捨てて、次の一手を見据えよ。」その言葉が翔太の心に響く。彼は和也のプレースタイルから、ただ攻めることだけが全てではないと理解し始めた。

対局が進む中、翔太は自らの戦略を見直し始める。つまらない石に執着するのではなく、価値のある石を生かすことが求められていた。翔太は一つの決断を下す。彼は手元の小さな石を見つめ、それを棄てることで、より強い手を繰り出す準備を整えた。

その瞬間、翔太の心に明晰さが訪れる。彼は再び局面を見渡し、自分がどのように戦うべきかを考える。和也の動きが先手を取り続ける中、翔太は彼のリズムに合わせて自らの手を調整していった。棄てた石が道を開き、より大きなチャンスを掴むための準備となった。

最後の局面で、翔太は大胆に動いた。彼は和也の陣地の中心に攻め込む手を放ち、これまでの消耗を一気に取り戻すかのように展開した。和也はその意外な一手に驚き、思わず反応が遅れてしまう。翔太はその隙を見逃さず、一気に攻勢に出た。

「やはり、棄てるべきものは捨てるのが正解だった」と、翔太は心の中で確信した。彼は和也の動きを読み、次々と石を進めていく。最終的には、翔太の攻撃が和也の防御を突破し、勝利を手にした。

対局が終わると、翔太は和也に深い敬意を表した。「教えてくれてありがとう。無駄な石を捨てて、先を争う大切さを学びました。」和也は微笑みながら頷き、彼の成長を心から祝福した。

翔太はこれからの碁士としての道を歩む覚悟を新たにし、心の中で「棄子争先」を胸に刻んだ。彼の成長はまだ始まったばかりだった。