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春秋花壇

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害をなすのは、心を素通りする虚偽ではなく、心の中に沈んで居すわる虚偽である

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害をなすのは、心を素通りする虚偽ではなく、心の中に沈んで居すわる虚偽である

ベーコン「随筆集」


「沈みゆく真実」

春の夕暮れ、夕焼けが窓から差し込むリビングに、真紀子は静かに佇んでいた。彼女の心は重く、胸の中に広がる虚しさに耐えかねていた。結婚して15年、夫の浩一との生活は表面上は順調に見えた。しかし、その裏には決して明かされることのない虚偽が沈みこんでいた。

浩一は、会社では成功を収め、周囲からも尊敬される存在だった。真紀子も、外から見れば理想的な妻であり、家族や友人からも羨ましがられる存在だった。しかし、彼女はその裏で、自分の心が日々少しずつ蝕まれていくのを感じていた。

その始まりは、浩一が仕事のために頻繁に出張するようになった頃だった。彼は毎日のように帰りが遅くなり、時には連絡もなく外泊することも増えていった。真紀子は不安に駆られ、夫に真意を問いただしたが、浩一はいつも「仕事が忙しいから」と言い訳をしていた。

最初のうちは、彼の言葉を信じようと努めた。しかし、次第に真紀子の心の中に一つの疑念が芽生え、それが次第に大きくなっていった。彼女は夫の行動を疑い、彼が隠している何かがあるのではないかと感じ始めた。

ある日、真紀子は浩一の携帯電話を手に取り、こっそりとメッセージを確認した。そこには、彼の同僚である女性との親しげなやりとりが数多く残っていた。彼女の心は一瞬で凍りつき、胸の奥で何かが崩れ落ちる音がした。

「これが真実なんだ」と彼女は思った。だが、その真実を知ったところで、どうすればいいのかがわからなかった。彼女はその時、自分の心の中に新たな虚偽を沈める決意をした。それは、何も知らないふりをして、日々を過ごすことだった。

虚偽は心の中に沈み、彼女の日常に静かに居座った。浩一は何事もなかったかのように振る舞い、真紀子もまた、平静を装い続けた。しかし、その沈んだ虚偽は次第に真紀子の心を蝕み、彼女の精神を弱らせていった。

夜、真紀子は一人でベッドに横たわり、虚偽が居座る心の重さに押し潰されそうになることがしばしばあった。彼女は自分の選択が間違っていたのではないかと自問し、その答えを見つけることができずに苦しんでいた。

ある日、真紀子は友人の由美子とカフェでお茶をしていた。由美子は真紀子の変化に気づき、やさしく尋ねた。

「何かあったの?」

真紀子は一瞬、何を話すべきか迷った。しかし、由美子の温かい目を見つめるうちに、彼女は心の中に沈んでいた虚偽を吐き出したい衝動に駆られた。すべてを打ち明けることで、少しでも心の重さを軽くしたいと願った。

「実はね…」真紀子はゆっくりと話し始めた。由美子はただ黙って耳を傾け、彼女の話を遮ることはなかった。真紀子は夫の浮気を疑っていること、その疑念を胸に秘め続けてきたことを話した。

話し終えると、真紀子の目には涙が浮かんでいた。由美子は彼女の手を取り、やさしく握りしめた。

「辛かったわね。だけど、自分を責めないで。あなたは自分を守ろうとしただけなのよ。」

由美子の言葉に、真紀子は初めて自分がどれだけ孤独だったかを実感した。そして、自分の心に沈んでいた虚偽が、実際には自分自身を守るための盾であったことに気づいた。

その後、真紀子は少しずつ心を開き、由美子や他の友人たちに支えられながら、真実と向き合う勇気を取り戻していった。彼女は浩一との関係を再評価し、自分の幸せを取り戻すための選択をする決意を固めた。

心の中に沈んでいた虚偽は、真紀子が自分を守るために作り出したものだった。しかし、それがもたらした害に気づいた時、彼女はその虚偽から解放される道を選んだ。そして、真紀子は新たな一歩を踏み出し、真実の自分と向き合う旅を始めたのだった。








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