名言

運命は我々の行為の半分を支配し、他の半分は我々自身に委ねる

運命は我々の行為の半分を支配し、他の半分は我々自身に委ねる

ニッコロ・マキャヴェッリ『君主論』


1.

静かな夜の帳が降りる頃、レイラは自室の机に向かっていた。彼女の手には、使い古された万年筆が握られており、その先には書きかけの手紙が広がっている。薄明かりの中で、彼女は何度も同じ文を繰り返し書いては消し、また書き直していた。

「人生はまるで不確かな航海のようだ」と書きかけたが、再びその文を消し去った。彼女の頭の中には、ずっと心に刺さっている言葉があった。それはかつて彼女の父が口にした一言だ。

「運命は我々の行為の半分を支配し、他の半分は我々自身に委ねるのだ。」

レイラの父は、常に運命と自己の意志について語っていた。それは彼が生きた人生そのものだった。彼は人生の多くを運命に任せながらも、最後には自らの意志で未来を切り開いたのだ。レイラもまた、その言葉に影響を受けながらも、自らの運命を模索していた。

2.

レイラがこの手紙を書いているのは、彼女の愛する人、カイルに宛てたものだった。カイルとは大学時代に出会い、運命的な恋に落ちた。しかし、彼との関係はいつも不安定で、まるで運命に翻弄されているかのようだった。

彼らが初めて出会った日もまた、偶然の重なりだった。レイラはその日、友人との約束に遅れていた。道を急いでいるとき、彼女は偶然にもカイルとぶつかったのだ。二人ともお互いに謝り、ふと目が合った瞬間、運命の糸が二人を引き寄せたように感じた。

その後、二人はすぐに親しくなり、恋に落ちた。しかし、カイルはいつも何かに囚われているようだった。彼は「運命なんてものは信じない」と言い切り、全ては自分自身の力で成し遂げるものだと主張していた。そんな彼の強さに惹かれる一方で、レイラはその考えに疑問を抱いていた。

3.

時が経つにつれ、二人の関係は次第に緊張感を帯びていった。カイルは自分のキャリアに専念するようになり、レイラとの時間を削るようになった。彼女はその変化に不安を感じつつも、彼を理解しようと努めた。しかし、ある日突然、カイルは「もう一緒にはいられない」と告げ、彼女の元を去ってしまった。

その言葉に、レイラは打ちのめされた。彼女は運命の力を信じていたが、カイルはその運命を否定し、自らの意志で関係を終わらせたのだ。彼女はその夜、父の言葉を思い出しながら、涙を流した。

「運命が半分、我々の行為が半分…」

その言葉の意味を理解しようとするも、レイラは自分自身が何をすべきか見失っていた。運命を信じることが、ただ待つことを意味するのか、それとも自ら行動を起こすことが含まれているのか。彼女はその答えを見つけるために、自分と向き合わなければならなかった。

4.

数ヶ月が過ぎ、レイラはようやく手紙を書き終えた。彼女はカイルに、自分の思いを正直に伝えた。そして、運命についての自分の考えも率直に綴った。

「私はずっと運命を信じてきた。でも、それは決してすべてを運命に委ねることではなかった。私は、運命が私に与えた道を選び、その中で最善を尽くすことが重要だと思っている。」

手紙を封筒に入れ、レイラは深く息を吸い込んだ。そして、その手紙を郵便受けに投函した。

その翌日、レイラは自分の未来を見つめ直す決意を固めた。彼女は運命に導かれながらも、自分の意志でその道を選び取っていくことを誓った。半分は運命に委ねられているかもしれないが、残りの半分は彼女自身が握っているのだと。

カイルとの関係が再び芽生えるのか、それとも彼とは違う未来が待っているのかは分からない。しかし、レイラは自分の運命を恐れずに受け入れ、前に進むことを選んだ。

夜空を見上げると、星が輝いていた。レイラはその光を見つめながら、微笑んだ。運命も、自らの意志も、どちらも彼女にとってかけがえのないものだと感じていた。

終わり