名言

千里の道も一足ずつはこぶなり

千里の道も一足ずつはこぶなり

宮本武蔵「五輪書」


夜が更け、オフィスの中は静まり返っていた。時計の針が午前2時を指す頃、拓也（たくや）はまだ机に向かってキーボードを叩いていた。彼は新たに任されたプロジェクトのリーダーとして、何としても成功させたいという強い思いを抱いていた。

しかし、仕事は思うように進まず、プレッシャーは日に日に増していった。締め切りが迫る中、拓也は一人でその重荷を背負い込んでいた。日々の進捗はわずかで、目標に到達するまでには途方もない道のりがあるように感じられた。

「これじゃ、到底間に合わない…」と、拓也はため息をつきながらつぶやいた。プロジェクトのスケールが大きく、どこから手をつけていいのかわからなくなっていた。

そんな時、ふと机の上に置かれた一冊の本が目に入った。それは、彼が新入社員の時に先輩から贈られた本だった。タイトルは『千里の道も一歩から』。その言葉を目にした瞬間、拓也は自分の初心を思い出した。

「千里の道も一足ずつはこぶなり…」その言葉は、当時の先輩が、困難な仕事に挑む際の心構えとして語ってくれた言葉だった。どんなに長い道のりでも、最初の一歩を踏み出し、一歩一歩進んでいけば、必ずゴールにたどり着けるという教えだった。

拓也は深呼吸をし、冷静に目の前のプロジェクトを見つめ直した。そして、全体の目標に圧倒されるのではなく、小さなタスクに分割し、それを一つずつ着実にこなしていくことを決意した。

まず、全体のスケジュールを見直し、各タスクを細かく分けていった。そして、それらを優先順位に基づいて整理し、毎日少しずつ進める計画を立てた。拓也はこの新たな計画に従い、翌日から一歩一歩確実に前進していった。

毎日少しずつ進めるうちに、少しずつではあるが確実に目標に近づいている感覚を持つことができた。拓也は自分に無理をさせず、しかし怠けず、着実に進むことを心がけた。すると、かつては果てしなく感じられた道のりも、今では手が届くように感じられた。

数週間が経ち、プロジェクトは徐々に形になっていった。チームメンバーとの協力も円滑に進み、みんなで同じゴールに向かって進んでいることを感じた。拓也は日々の小さな成功を積み重ねることで、プロジェクト全体が動いていることを実感し、自信を取り戻していった。

そして、ついにプロジェクトの最終日が訪れた。拓也はチームメンバーと共に最後の仕上げを行い、全員でその成果を確認した。完成したプロジェクトを前に、彼らは達成感と満足感で満ち溢れていた。

「やったぞ…」拓也は心の中でつぶやき、笑顔を浮かべた。長い道のりだったが、千里の道を一足ずつ進んできたことが、確実にこの成果をもたらしたのだ。

プロジェクトが無事に完了した後、拓也はチームメンバー一人ひとりに感謝の言葉を述べた。皆の努力が結集した結果であり、何よりもその過程が貴重な経験となったことを強調した。

その日の夜、拓也は帰り道を歩きながら、自分自身の成長を感じていた。これからも、どんな困難な道のりであっても、焦らず、地道に一歩一歩進んでいくことが大切だと心に刻んだ。

彼は再び夜空を見上げ、遠くに輝く星を眺めながら、これからも続く人生の旅路に思いを馳せた。「千里の道も一足ずつはこぶなり」という言葉が、彼の心の中で深く響いていた。

これからどんな試練が待ち受けていようとも、拓也はその一歩を踏み出す勇気を持っていた。そして、その道のりを一歩ずつ進み続ける決意を新たにした。彼の胸には、これからも続く挑戦への期待と、自分を信じる力が満ちていた。