名言

困難は分割せよ

困難は分割せよ

デカルト「方法序説」


雨が激しく窓を叩きつける夜、信吾（しんご）は、仕事机の前で頭を抱えていた。彼は今、会社のプロジェクトの責任者として、多くの課題を抱えていた。次々と舞い込む仕事の山に押し潰されそうで、どこから手をつけて良いかすらわからなくなっていた。

「どうしてこんなに多いんだ…」と、信吾は一人つぶやいた。プロジェクトの納期は刻一刻と迫り、失敗すれば会社に多大な損失をもたらす。信吾にとって、それは自分のキャリアが終わることを意味していた。

そんな中、彼の携帯電話が震えた。母からのメッセージだった。「元気にしてる？困ったことがあったら、いつでも相談してね。」というシンプルな内容だったが、信吾は心が少し軽くなるのを感じた。彼は母親に心配をかけたくないと思いつつ、返信を送った。「ありがとう、母さん。ちょっと仕事が大変で…でも、なんとかするよ。」

信吾は、少しでも前に進もうと、机に積まれた書類に手を伸ばし、目の前の仕事に取り掛かろうとした。しかし、山のように積まれたタスクが一つの巨大な壁となって彼を圧倒していた。頭の中で「無理だ」「終わらない」という声が渦巻く。

その時、ふと学生時代に習った言葉が頭をよぎった。「困難は分割せよ」。それは、大学時代の恩師がよく口にしていたフレーズだった。恩師はいつも、どんなに大きな問題でも、小さく分割して取り組めば、解決できると教えてくれた。

信吾はその言葉を思い出し、深呼吸をしてから、目の前の書類に再び目を向けた。まずは、全てのタスクをリストアップし、それをさらに小さなステップに分解することにした。例えば、大きなレポート作成なら、「資料集め」「データ分析」「文章作成」といった風に。

一つひとつのステップを書き出し、優先順位をつけて取り組むことで、信吾は次第に自分のペースを取り戻していった。たった一歩であっても、それを積み重ねることで、少しずつ前進している感覚が生まれた。

数日後、信吾はすべてのタスクを整理し終えた。そして、各ステップを着実にこなしていくことで、プロジェクト全体が少しずつ形になっていくのを感じた。彼は夜遅くまで働きながらも、焦る気持ちを抑え、冷静に対応することができた。

そんなある日、信吾の母親から再びメッセージが届いた。「どうしてる？仕事は順調かな？」。信吾は微笑みながら返信を書いた。「ありがとう、母さん。おかげさまで、少しずつ進んでるよ。」

プロジェクトの最終日、信吾はプレゼンテーションを終え、無事に納期を迎えることができた。上司からは労いの言葉を受け、チームメンバーからも感謝の言葉をもらった。信吾はその瞬間、自分が直面していた大きな壁を乗り越えたことを実感した。

後日、信吾は母親に電話をかけ、今回のプロジェクトの話をした。母親は「よく頑張ったね」と優しく声をかけてくれた。その言葉に、信吾は感謝の気持ちを伝え、これからも困難に直面した時には、恩師の教えを思い出しながら一歩ずつ進んでいく決意を新たにした。

電話を切った後、信吾は窓の外を見ると、雨はすでに止んでおり、澄んだ夜空に星が輝いていた。彼は椅子にもたれながら、静かな満足感に包まれていた。

「困難は分割せよ」――その言葉は、これからも信吾の人生の指針となり、どんな壁にぶつかろうとも、彼はそれを乗り越えていくのだろう。