名言

自分には自分に与えられた道がある。 天与の尊い道がある。

自分には自分に与えられた道がある。
天与の尊い道がある。

松下幸之助『道をひらく』


天与の道
黒川玲子は幼い頃から、自分の将来について深く考えることが多かった。彼女は田舎の小さな町で育ち、家族は農業を営んでいた。家の周りには広大な田畑が広がり、季節ごとに変わる風景が玲子の目に映る中で、自然と一体となって育った。

玲子はいつも、家族の期待を感じていた。両親は玲子に農業を継いでほしいと願っていたが、彼女は心の中で違う道を求めていた。畑仕事も好きではあったが、それ以上に都会の華やかな生活や新しい世界に触れたいという欲求が強かった。

高校を卒業する頃、玲子は進路について悩んでいた。家業を継ぐか、都会に出て新しい世界で自分を試すか。彼女は夜ごと、天井を見つめながら考え込んでいた。彼女が心に秘めた夢は、デザインの勉強をしてファッション業界で活躍することだった。しかし、その夢は家族や故郷を裏切ることになるのではないかと、不安を感じていた。

そんなある日、玲子は祖母の部屋で、古い箱を見つけた。その箱には、祖母が若い頃に書いた手紙や日記が収められていた。玲子は興味をそそられ、その中の一冊を手に取った。それは、祖母がまだ少女だった頃に書いたものだった。

「自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。」

その言葉が、日記の一ページ目に書かれていた。玲子はその言葉を読み、自分の中で何かが変わるのを感じた。祖母もまた、自分の道を探し、模索していたのだ。日記を読み進めるうちに、祖母が若い頃、村を出て都会で看護師として働き始めたことを知った。彼女もまた、故郷を離れ、新しい道を選んでいたのだ。

日記には、祖母が都会でどれほど苦労し、どれほど葛藤していたかが克明に記されていた。家族の期待を裏切るような気持ちにさいなまれつつも、彼女は自分の信じる道を歩む決意をしていた。そして、その道が、最終的には家族や自分自身にとって尊いものであることに気づいたのだ。

玲子はその日、祖母に日記について話すことにした。祖母はにっこりと笑い、「そうね、あの頃は本当に悩んだわ。でも、結局、自分の信じる道を歩むことが、私にとっても家族にとっても一番良い選択だったの。だから、あなたも自分の心に従いなさい。あなたには、あなたに与えられた天与の道があるのよ。」

その言葉は、玲子の心を強く後押しした。彼女は自分の夢を追いかける決意を固め、東京のデザイン専門学校へ進むことにした。

東京での生活は決して楽ではなかった。玲子は孤独や経済的な困難に直面したが、それでも彼女は自分の道を歩み続けた。彼女のデザインは次第に注目を集め、ファッションショーでのデビューを果たすまでになった。しかし、その過程で玲子は何度も自問自答した。自分が選んだこの道が、本当に「天与の尊い道」であるのかと。

その疑念が晴れたのは、彼女が初めて手掛けたファッションショーの後だった。ショーが成功し、彼女のデザインが称賛されたその夜、玲子は一人で静かに祖母に電話をかけた。

「おばあちゃん、私…自分の道が間違っていなかったことが分かったよ。」

祖母は電話の向こうで優しく答えた。「それは良かったわ、玲子。あなたは自分の道を信じて歩んできた。その道が正しいことに気づけたなら、それこそがあなたにとっての天与の道だったのよ。」

玲子は涙がこぼれそうになるのをこらえた。「ありがとう、おばあちゃん。おばあちゃんの日記を読んで、自分の道を見つけることができた。本当に感謝している。」

それから数年後、玲子は故郷に帰り、家族に彼女のデザインした服を見せた。両親は、玲子が都会で成し遂げたことに誇りを感じ、涙を浮かべながらその服を手に取った。

「玲子、お前の選んだ道が正しかったんだな」と父親が言った。「お前は自分の道を見つけたんだ。それが天から与えられた尊い道なんだろうな。」

その言葉を聞き、玲子は深い満足感を覚えた。彼女は自分の人生を振り返り、自分の選んだ道が家族や自分自身にとって最も尊いものであったことを確信した。

玲子は再び都会へと戻り、さらに自分のデザインを発展させていった。彼女が手掛ける服は、ただのファッションではなく、彼女の心と志が込められた「天与の道」の証であった。そして、彼女はその道を信じ、歩み続けることで、多くの人々に感動と希望を与えていった。

自分には自分に与えられた道がある。それがどんなに困難な道であっても、それが天から与えられた尊い道であるならば、その道を信じて進むべきなのだ。玲子は、その真理を胸に抱き、これからも自分の道を歩み続けるだろう。