アルファポリスの投稿インセンティブのスコアを上げるには

小説の落ち

小説の落ち

夕暮れの街が静かに色づいていく中、私は彼との最後の約束の場所に向かって歩いていた。思い出の詰まったこの場所で、私たちの物語は幕を閉じる。今日、すべてが終わることを知っている。それでも、心のどこかでまだ何かを信じていた。

彼、涼介との関係は、いつもどこか脆くて、まるで砂上の楼閣のようだった。情熱的な瞬間もあったが、それ以上に数えきれない摩擦やすれ違いがあった。それでも、私たちは別れを選ばずにいた。まるで、切り離せない糸で繋がれているかのように。

しかし、今夜がその糸を解く時だとわかっていた。

駅前の広場にたどり着くと、すでに彼はそこに立っていた。少し疲れたような表情で、でもどこか清々しい空気をまとっていた。その姿を見て、私は胸が締め付けられるような感情に襲われた。

「久しぶりだね」と彼が先に口を開いた。

「そうだね、しばらく会ってなかったから」

言葉が喉の奥でつっかえる。何を話せばいいのかわからなかった。私たちはこうして最後の瞬間を迎えるのに、何も話すべきことが見つからない。もう、何も残っていないのだろうか？

「これが最後かもな」と彼は静かに言った。

その言葉に、私はただ頷いた。別れを覚悟していたはずなのに、その瞬間が現実になると、どうしてこんなにも痛いのか。涙が溢れそうになるのを、必死にこらえた。

「これまでありがとう、いろんなことがあったけど、君のおかげで自分が成長できたよ」と彼が続けた。

「私も…涼介と一緒に過ごした時間、大切にしてる。たくさん笑ったし、たくさん泣いたけど、全部が宝物だよ」

私の言葉に、彼は微かに笑みを浮かべた。それは、かつて私が何度も見た優しい笑顔だった。その笑顔を見ると、また涙がこぼれそうになる。もう、二度と見ることはないかもしれないと思うと、心が張り裂けそうだった。

「これからは別々の道を歩むけど、お互いに幸せになろうな」

彼の言葉に、私は力強く頷いた。本当は、別れたくない。まだ一緒にいたいと心の中で叫んでいた。でも、これが最善だと理解していた。お互いのために、ここで区切りをつけなければならない。

「じゃあ、元気でね」

彼は軽く手を振り、背を向けて歩き出した。私はその背中を見送りながら、心の中で最後の「さよなら」を告げた。

そして、その瞬間だった。

彼が歩き出した先、信号が赤になりかけている横断歩道へと足を踏み入れた。まるでスローモーションのように、車が迫ってくるのが見えた。私は息を飲み、思わず叫んだ。「涼介！」

しかし、彼の耳に届くことはなかった。車のブレーキ音が響き渡り、次の瞬間、彼の体が宙に舞った。

時間が止まったかのようだった。私はその場に立ち尽くし、何もできなかった。彼が地面に倒れるのを見ても、体が動かなかった。ただ、心の中で彼の名前を叫び続けていた。

しばらくして、救急車のサイレンが聞こえてきた。周囲がざわつき始め、現実に引き戻された私は、急いで彼の元に駆け寄った。彼は意識を失っていたが、まだ息があった。私は震える手で彼の手を握り、祈るように名前を呼び続けた。

「涼介、お願い…目を開けて…」

時間が過ぎるのを感じながらも、彼の呼吸がかすかに聞こえるたびに、希望を抱いた。必ず目を覚ましてくれると信じていた。

しかし、その希望も長くは続かなかった。医師が到着し、彼の状態を確認するまでの数分が、永遠に感じられた。そして、彼がもう戻ってこないことを告げられた瞬間、私の世界は崩れ去った。

涙が止めどなく流れ、彼の名前を何度も呼び続けた。これが本当に最後なのだと、現実が重くのしかかってきた。涼介はもう二度と、私の目の前で笑うことも、声をかけてくれることもない。それが、痛みを伴いながらも次第に確信へと変わっていくのを感じた。

私はその場に膝をつき、彼の冷たくなっていく手を握りしめた。「最後の約束」なんて、こんな形で果たされるなんて思ってもみなかった。今日、すべてが終わると言ったけれど、私はまだ彼との別れを受け入れることができていない。

あの穏やかな笑顔が脳裏に焼き付き、胸が締め付けられる。二人の間にあった、すれ違いや摩擦、そしてほんのわずかな幸福。それらがすべて、今となっては虚しく感じられる。

涼介の手を離し、立ち上がると、遠くで街の灯りが揺れているのが見えた。私たちが別々の道を歩むことは、もはや避けられない運命だった。だが、こんなにも突然、こんなにも残酷な形でそれが訪れるとは――。

秋の夕暮れがさらに色濃くなり、静けさが増す中で、私は公園の方へと歩き出した。涼介との思い出が詰まったその場所で、静かに彼を見送るために。これが、私たちの本当の終わりであり、私が彼との物語に幕を引く瞬間だった。

それでも、心のどこかで涼介の存在を感じながら、私は前を向いて歩き出した。彼との最後の約束を胸に、もう一度、生きていく覚悟を決めて。