嫉妬

春秋花壇

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月影の告白

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月影の告白

カンターレ王国の城で、王女セシリアは人々の憧れの的だった。金糸を織り込んだような金髪、吸い込まれそうな深い青の瞳、そして気品あふれる立ち居振る舞い。誰もが彼女に魅了されたが、彼女の心は深い孤独と、誰にも打ち明けられない恋で満たされていた。

その恋の相手は、父王に忠誠を誓う若き騎士、レオンだった。穏やかで誠実な彼は、どこか物憂げな影を瞳に宿していた。その憂いが、セシリアの心を強く惹きつけていた。

ある夜の舞踏会。きらびやかな照明の下、人々が優雅に踊る中、セシリアは遠くでレオンと公爵令嬢クラリッサが談笑しているのを目にした。クラリッサは深紅の薔薇をふんだんに使った豪華な髪飾りをつけ、太陽のように明るい笑顔を振りまいている。レオンはいつもの控えめな態度ながらも、時折微笑みながら彼女の話に耳を傾けていた。

セシリアの胸に、鋭い痛みが走った。嫉妬という名の炎が、静かに燃え上がっていく。しかし、王女としての誇りが、その感情を表に出すことを許さなかった。彼女は優雅な微笑を貼り付け、その場を後にした。

数日後、セシリアは庭園でレオンと出会った。偶然を装った出会いだったが、実際には侍女に彼の動向を探らせ、この時を待っていたのだ。

「王女様、良い昼下がりですね」

レオンの穏やかな声が、セシリアの耳に心地よく響く。

「ええ、レオン。あなたと話せて嬉しいわ」

セシリアは微笑み返したが、内心は緊張で胸が高鳴っていた。

レオンは少し戸惑ったように視線を落とした。

「何かお困りのことがあれば、お聞かせください」

その言葉に、セシリアの心は揺れた。彼の誠実さは、彼女の心を惹きつけると同時に、身分の違いを意識させ、切ない痛みを伴う。

「レオン…あなたはクラリッサ様と親しいの？」

抑えきれない感情が、思わず言葉となって口をついて出た。

「え？いえ、公務の関係でご一緒する機会が多いだけです」

レオンは困惑した表情を浮かべた。その言葉に安堵する反面、セシリアは自分の嫉妬深さに自己嫌悪を覚えた。

その夜、月が空高く昇った頃、セシリアは意を決してレオンを庭園に呼び出した。月明かりが二人を優しく照らす中、セシリアは震える声で告白した。

「レオン、私は…あなたを愛しています」

レオンは驚きに目を見開いた。しかし、その瞳の奥には、深い苦悩の色が宿っていた。

「王女様、私はあなたを心から敬愛しております。しかし…」

セシリアは彼の言葉を遮った。「なぜ？なぜ最後まで言わないの？」

レオンは深い息をつき、重い口を開いた。

「私は…かつて隣国、エルディアの姫君と婚約していました。彼女は私にとって、光のような存在でした。しかし、両国間の争いが激化し、私は彼女を守ることができなかったのです。彼女は戦火に巻き込まれ、命を落としました。それ以来、私は愛する資格を失ったと思っています。愛する人を失う苦しみを、二度と味わいたくないのです」

レオンの言葉に、セシリアは息を呑んだ。彼の瞳に宿る悲しみは、想像を絶するものだった。

「レオン…あなたの過去を知っても、私の気持ちは変わりません。私はあなたを愛しています。それでは、足りないの？」

セシリアは涙を浮かべながら、必死に訴えた。

レオンは静かに首を横に振った。「王女様、あなたの純粋な想いは、私には眩しすぎるのです。私のような、過去に囚われた人間が、あなたのような光に触れてはいけないのです」

セシリアは震える手で彼の手に触れた。レオンは一瞬躊躇したが、優しくその手をほどいた。

「レオン…」

セシリアは涙を拭い、かすかな微笑みを浮かべた。

「ありがとう、レオン。あなたの過去を教えてくれて。そして、私の気持ちを受け止めてくれて。あなたを愛していたことは、私の心の中で、永遠に美しい秘密です」

レオンは深く頭を下げ、何も言わずにその場を去った。月明かりの下、セシリアは一人、庭園に取り残された。

翌日、セシリアはクラリッサを自室に招いた。

「クラリッサ様、お話があります」

セシリアは落ち着いた声で言った。

「王女様、どうなさいましたか？」

クラリッサは少し緊張した面持ちで尋ねた。

「レオンのことです。彼は…過去に辛い経験をしたようです。もし、あなたが彼のことを大切に思っているのなら、彼の過去を受け止め、支えてあげてほしいのです」

クラリッサは驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な眼差しで答えた。

「王女様…ありがとうございます。実は、私もレオン様の過去について、少しだけ聞いておりました。彼の心の傷が癒えるまで、そっと見守りたいと思っております」

セシリアは微笑んだ。「きっと、彼なら幸せになれると信じています」

その後、セシリアはレオンへの想いを胸の奥にしまい、王国の平和のために力を尽くす道を選んだ。彼女は時折、庭園で月を見上げ、レオンのことを思い出していた。そして、あの舞踏会でクラリッサがつけていた、真紅の薔薇の髪飾りをそっと手に取った。薔薇の花言葉――「愛と苦しみ」。セシリアは、その両方を心に刻みながら、前を向いて歩き出した。彼女の心には、レオンとの出会いが、かけがえのない宝物として、いつまでも輝き続けるだろう。

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