十六歳の午後

春秋花壇

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十六歳の午後

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十六歳の午後

制服のスカートをひらひらさせながら、沙耶は繁華街を歩いていた。学校の帰り道のはずが、家に帰る気分にはなれなかった。今日もクラスの仲間と些細なことでケンカをしてしまった。学校では窮屈な空気が漂い、居場所がないように感じる日々が続いていた。

「どうして私ばっかり…」

沙耶はつぶやきながらスマホをいじり、適当に誰かにメッセージを送ることもせず、ただ画面を眺めていた。そんなとき、背後から声がかかった。

「ちょっと君、そこの学生さん。」

振り返ると、警察官が二人立っていた。沙耶は心臓がドキリと跳ね上がった。学校帰りの服装ではあったが、制服のシャツはシワだらけ、リボンも緩く結ばれたまま。沙耶は気まずそうに目をそらしながら、「はい」と答えた。

「時間はどうだい?もうすぐ夕方だけど、ここで何してるの?」

「別に、ただ歩いてただけです。」

警察官の目は厳しく、沙耶はその視線に耐えきれずに足元を見つめた。彼女の行動が問題であるかのように感じさせられ、居心地の悪さを覚えた。

「そうか。でも、ちょっと付き合ってもらえるか?」

警察官は優しく声をかけてきたが、その言葉には隠しきれない疑念が滲んでいた。沙耶は無言でうなずき、警察官について行った。すぐ近くの派出所に連れて行かれ、そこで沙耶は椅子に座らされた。派出所の中は静かで、時計の針がカチカチと音を立てて進んでいるのがやけに耳についた。

「君、名前は?」

「沙耶です。」

「沙耶さん、今日はどうして学校帰りに繁華街を歩いてたの?」

「なんとなく、帰りたくなくて…」

沙耶の声は小さく、警察官の耳に届くかどうか分からないほどだった。彼女は自分の心の中を正直に話すことができず、ただ言葉を濁すことしかできなかった。警察官は沙耶の様子を見て、少しの間をおいてから尋ねた。

「家に何かあったのか?それとも、学校で何かあったのか?」

沙耶は何も答えられず、ただ唇をかみしめていた。家でも学校でも、自分の居場所が見つからない。そんな漠然とした不安が心の中に渦巻いていることを、沙耶はどう表現すればいいのか分からなかった。

「お父さんかお母さんに連絡してもいいか?」

その言葉に沙耶はハッとした。家にいる母親の顔が頭をよぎる。厳格な母親は、こんな状況を知ったら怒り狂うに違いない。沙耶は焦って首を振った。

「やめてください。お母さんには言わないでください…」

「でも、君はまだ未成年だ。親御さんに連絡しないといけないんだよ。」

警察官は困ったように言いながらも、規則だからと説明を続けた。沙耶は椅子に深く座り直し、目を閉じて深呼吸した。どうしてこんなことになってしまったのか。自分が悪いのか、それとも周りが悪いのか、答えは見つからなかった。

やがて、母親が派出所にやってきた。険しい顔をして入ってくる母親の姿に、沙耶はすっかり気持ちが萎えてしまった。派出所の中の空気が一層重たく感じられた。

「沙耶、一体どうしたの?」

母親の声は厳しく、しかしその奥には心配の色が見え隠れしていた。沙耶は言い訳を探すように目を泳がせたが、結局何も言えなかった。警察官が事情を説明する間、母親はただ黙って聞いていた。そして最後に深くため息をつき、沙耶に向かって静かに言った。

「家に帰りましょう。」

その一言が、沙耶の心に突き刺さった。何も言わずについて行くしかなかったが、その途中で涙がこぼれ落ちた。母親の背中が遠く感じ、まるで自分だけが置き去りにされたような気がした。家に帰った後、沙耶は自分の部屋に閉じこもり、布団の中に潜り込んだ。心の中の混乱は収まらず、ただ時間だけが過ぎていく。

その夜、沙耶はふとスマホを手に取り、画面を見つめた。そこには無数の未読メッセージが並んでいる。それでも、誰にも返事をする気になれなかった。居場所がないという感覚が、スマホの画面越しにまで広がっているようだった。

ベッドの上で身を縮めながら、沙耶は自分に問いかけた。「私は何をしたいんだろう?」自分が望むものが見えず、ただ漂流しているような感覚。明日になればまた学校がある。クラスメイトとの関係も、母親との距離感も、何一つ変わらないだろう。

それでも、沙耶はその夜、目を閉じて小さな決意をした。少しずつでも、自分の居場所を見つけるために歩き出そうと。今はまだそれがどんな形か分からないけれど、いつか見つかるはずだと信じて。

朝が来て、新しい一日が始まる。その日は昨日よりも少しだけ明るい気がして、沙耶は静かに目を開けた。まだ解決されない問題は山積みだけれど、今日もまた、自分のペースで一歩を踏み出す。十六歳の沙耶にとって、それが今できる精一杯の前進だった。










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