Addicted To You

あなたに依存して

あなたに依存して

深夜、静まり返った都会のビル街で、葵は一人ベランダに立っていた。冷たい風が頬を撫で、空を見上げると、都会の喧騒の中ではほとんど見えない星がちらほらと輝いている。

「また、こんな時間に起きてしまった」

彼女は小さく息をつきながら自分に言い聞かせるようにそう呟いた。心の奥に根付いてしまったある感情が、眠りを奪い、日々の生活に影を落とし続けていた。それは、初めて感じた時からどこか危うく、手放すことのできない何かだった。そして、それが原因で誰にも打ち明けられない秘密を抱えているように感じていた。

「彼なしでは生きられない、なんて馬鹿みたい」

でも、そう思うたびに葵は自分の弱さを痛感した。彼、春樹は彼女のすべてだった。会った瞬間から彼の存在が葵の世界を一変させ、彼女の心を奪って離さなかった。彼の温もり、視線、笑顔、すべてが彼女を引きつけ、深く心に刻まれていた。

春樹との出会いは、ほんの些細な偶然だった。雨の日、傘を持たずに困っていた葵を見かけ、彼は自分の傘を差し出してくれた。それ以来、二人は何度も会い、気がつけば一緒に過ごす時間が増えていった。春樹は他人に対しても優しく、何事にも動じない落ち着いた雰囲気を持っていた。そんな彼の魅力に、葵はどんどん惹かれていった。

だけど、彼のことを知れば知るほど、葵は自分がどれだけ彼に依存しているかに気づき始めた。春樹がいないと感じる日々が苦しくて、何かをするたびに彼の顔が浮かんでくる。そして、彼からの連絡が遅れるたびに心がざわつき、何度もスマホを確認してしまうのだった。

「こんなに彼を必要としているのは、私だけなんじゃないかって思うと怖い」

そんな彼女の思いに反し、春樹は葵に対してごく自然体で接してくれていた。彼にとってはそれが当たり前で、特別なことでも何でもないのかもしれない。しかし、その当たり前のように見える彼の優しさや温もりが、葵にとっては不可欠なものとなり、手放すことができなくなっていた。

「このままではいけない」

葵は自分にそう言い聞かせるように、何度も自問自答した。彼の存在が重荷となり、彼がいなければ生きていけないと思っている自分を否定しようと努力した。でも、それでも彼に会いたくて、彼の声を聞きたくて仕方がなかった。

そんなある日、春樹が仕事の都合で遠くに引っ越す話を耳にした。彼からはまだ何も言われていなかったが、その噂は確かだった。葵は動揺し、心が乱れてどうしようもなかった。これから先、彼がそばにいない生活なんて考えられない。彼のいない未来なんて、何の意味も持たないように感じた。

「もう、限界だ」

葵は意を決して春樹に自分の気持ちを伝えることにした。彼に依存している自分の姿をさらけ出すことは怖かったが、それ以上に彼を失う恐怖の方が大きかった。

彼と会う約束をし、静かなカフェで向き合った葵は、震える声で告げた。

「春樹、私、あなたなしでは生きられないかもしれない…」

その言葉に春樹は驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかに微笑んで答えた。

「葵、君が僕を必要としてくれているのは嬉しいよ。でも、君には君自身の価値があることを忘れないでほしい。僕も君がいることで支えられているし、君は自分が思う以上に強い人なんだ」

その言葉は、葵の心に深く響いた。彼に依存しているのではなく、互いに支え合う関係を築ける可能性があることに気づかせてくれたのだ。彼の言葉に励まされ、葵は自分を取り戻すために少しずつ、依存から解放される努力を始める決意をした。

春樹が遠くへ行くことになっても、彼を信じ、彼の言葉を支えに自分の人生を歩んでいく。葵は彼に「ありがとう」と告げ、もう一度自分を信じてみようと思えたのだった。