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春秋花壇

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リセット症候群

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リセット症候群

リセット症候群――それは、何かにつけて人間関係を衝動的に断ち切ってしまう、そしてその後で後悔し、また同じことを繰り返すという奇妙な癖であり、心理状態だ。まだ病名としては認められていないが、誰かがその言葉を口にした瞬間から、私はそれが自分にぴったりだと思った。

吉田美沙は、二十代後半の会社員。内向的で人見知りが激しい彼女は、どこかしら他人との接触を避けがちだった。仕事での人間関係も簡単に崩れ、プライベートでも友人ができることはほとんどなかった。その度に、彼女は無意識に自分を守るために、気づかぬうちに他人を切り捨ててしまう癖があった。

例えば、親しい友人からのメッセージに対して、少しでも負担に感じると、何も言わずに返信をしない。相手から連絡が来ても、どうしても返信ができなくなり、最終的にはその関係を断ってしまう。最初は些細な理由だったのに、その後に後悔が襲ってくる。だが、いつの間にかその後悔の感情は薄れていき、また新たな人間関係を築こうとするも、その繰り返しが続く。

美沙の仕事場でもその傾向が顕著だった。上司や同僚と食事に行くことを提案された時、最初は嬉しそうにしていたのに、急に気が引けて行きたくなくなってしまう。行けば気まずく感じるし、行かないと後で不安になる。その不安から逃れるために、また自分から距離を取ってしまうのだ。

そんな日々が続いていたある日、同僚の田中が美沙に声をかけてきた。

「美沙さん、今度の週末、一緒に映画でも行きませんか? みんなで行く予定なんですけど。」

その一言に、美沙はまた衝動的に答えてしまった。

「すみません、その日は予定があるので。」

その後、田中からのメッセージに対する返事はなかった。別の同僚からもその映画のことを聞かれると、美沙は答えるのを避けた。

翌週、田中が少し寂しそうに話してきた。

「美沙さん、あの映画、一緒に行けなくて残念でしたね。でも、次回はぜひ行きましょうよ。」

その言葉が、いつも美沙が抱えている後悔の種になった。彼女はすぐにそれに気づくが、今さら後悔しても遅いことを理解していた。

次の日、美沙は田中に少し遅れて返事を送ることにした。

「ごめんなさい、映画に行けなかったこと、本当に後悔しています。よかったらまた誘ってください。」

だが、その後も何度かやり取りをしながら、美沙の心にはまた不安が生まれてきた。「また断ったらどうしよう」「もし田中が嫌になったらどうしよう」と、その不安は日々彼女を追い詰めていく。そして、美沙はまた無意識に距離を取ることになるのだった。

「リセット症候群」という言葉を最初に聞いた時、私はあまりにも自分の状況にぴったり過ぎて驚いた。それは、まるで自分がその症状を持つ人間であることを認めたくないという思いが、私の心を深く押し込めていった。しかし、どうしてもその症状から逃れられなかった。

何度も繰り返すうちに、美沙はついに自分を変えるための行動を起こした。仕事であろうとプライベートであろうと、もう誰とも関わらないほうが楽だと感じ始めた。だが、それが彼女の心をどんどん空虚にしていくのも感じていた。孤独で、誰にも頼れない自分。けれども、心のどこかで、もう一度誰かと深く関わりたいと思っている自分がいる。

ある日、美沙は決意を固め、会社の昼休み時間に田中に直接声をかけた。

「田中さん、先日は映画に行けなかったこと、本当に申し訳なかったです。よかったら、今度一緒にランチでもいかがですか?」

その時、美沙は初めて、他人との関係をリセットするのではなく、もう一度真剣に繋がりたいという強い思いを抱いていた。

田中は少し驚いたようだったが、すぐに笑顔で答えた。

「もちろん、行きましょう! 今日でもいいですよ。」

美沙はその言葉に、何とも言えない安堵感とともに、初めて心から笑顔を浮かべた。何年も続けていた自分を閉じ込める癖が少しずつ解けていくような、そんな感覚を覚えていた。

リセット症候群は、決して簡単に治るものではない。だが、美沙はその一歩を踏み出すことができた。少しずつ、人との関係を築くことを恐れず、傷つくことを恐れずに生きていくことを決意したのだ。

そして、彼女の心に変化が訪れた。その変化が、彼女自身の人生をより豊かにしていくのだろうと、少しだけ確信を持てるようになった。

リセット症候群という心理状態を抱えた女性が、それを克服しようとする過程を描いた物語です。自分との葛藤を乗り越えて、人間関係を築いていく勇気を持つことができるようになる姿を描きました。







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