生きる

春秋花壇

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寝床では、考えれば考えるほど嬉しくなることを

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寝床では、考えれば考えるほど嬉しくなることを

夜の帳が下り、静寂が広がる部屋で、彼女はふかふかの布団に体を預けた。暖かな毛布に包まれ、心地よい重みが全身を覆う。けれど、目を閉じても眠れない。心は次々と不安を掘り起こし、考えたくもない事柄が頭を巡る。

「こんなとき、何を考えたらいいんだろう?」

彼女は幼い頃、祖母に教えられた言葉をふと思い出した。

「寝床では、考えれば考えるほど嬉しくなることを思いなさい。思えば思うほど楽しくなることだけを考えてごらん。」

それは簡単なようでいて、意識しなければなかなかできないことだ。けれど、試してみる価値はあるだろうと、彼女は目を閉じたまま静かに深呼吸をした。

最初に浮かんだのは、小さな頃に家族で訪れた海辺の思い出だった。

砂浜で裸足になり、波打ち際を走り回ったあの日。冷たい波が足元をさらう感覚に笑い声をあげた。母が作ってくれた手作りのサンドイッチは、塩気の混じった風の中で一層おいしく感じられた。

彼女の顔に自然と微笑みが広がる。

次に、大学時代の友人たちと過ごした楽しい夜が思い浮かぶ。

徹夜で話し込んだあのカフェ、試験の前にみんなで助け合った時間。卒業後はそれぞれの道を歩むことになったけれど、その瞬間だけは全員が一つの輪の中で輝いていた。

記憶の中の友人たちの笑顔が、今にも目の前に浮かびそうなほど鮮明だった。

さらに、最近の出来事にも思いを馳せた。

忙しい仕事の合間を縫って訪れた美術館で見た絵画、カフェで飲んだ季節限定のラテ、通勤途中にふと目にした青空と紅葉のコントラスト。

どれも些細な出来事だけれど、こうして思い返してみると、ひとつひとつが小さな宝石のように輝いている。

「嬉しくなることを考えれば考えるほど、本当に心が軽くなる気がする…」

彼女は心の中で呟いた。

やがて、思考は夢と現実の狭間を漂い始める。大好きな作家の本の中の世界がふわりと広がり、自分自身がその物語の主人公であるかのような感覚に包まれる。

冒険、笑い、愛、そして新しい発見――頭の中にあるのは、彼女が心から望む温かさと興奮に満ちた未来の可能性だった。

時計の針が少しずつ進む中、彼女の呼吸は穏やかになっていく。目を閉じたまま、心は満ち足りていた。

いつの間にか、不安や心配は姿を消していた。ただそこにあったのは、穏やかな幸福感と、これから訪れる明日への静かな期待だった。

祖母の教えは、きっとこんなふうに彼女を守り続けるのだろう。

考えれば考えるほど、嬉しくなることを。
思えば思うほど、楽しくなることだけを。

それだけで、夜は優しいものへと変わる。








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