生きる

おでん

おでん

「ううう、さむっ。」

寒さに思わず声を上げ、私は肩をすくめた。窓の外は冷たい風が吹き荒れ、街の灯りがかすかに揺れる。冬の寒さがひときわ身に染みる夜だった。急いでコートを羽織り、部屋の温度を少しでも上げようと暖房のスイッチを押した。しかし、それでも肌寒さは消えず、何か温かいものが欲しいと感じていた。

「こんな夜は、あつあつのおでんだよね。」

口に出してみた言葉に、ちょっとした安堵感が広がった。おでんと言えば、母がよく作ってくれた懐かしい味だ。あの時もこんな寒い夜だった。あの頃の私といえば、ただ母の温かい料理を食べるだけで幸せだったけれど、今はそれがどれほど大切だったかがわかるようになった。

私はスマホを取り出し、すぐにネットでおでんのレシピを検索した。材料が揃っていれば、すぐにでも作り始めることができる。ふと思い出す。確か、冷蔵庫に大根が残っていたはずだ。それと、少し前に買ったおでんセットがまだ使いかけで残っていた。

「よし、作るか！」

心の中で決意を固め、キッチンへと向かう。食材を準備しながら、どこか懐かしさが込み上げてきた。大根を切り、こんにゃくを下茹でする。だしを取るために昆布を水に浸し、少しの間放置。その間に、鍋に具材をどんどん入れていく。

「そういえば、昔はよく母と一緒に作ったな…」

その思い出が、ふと心を温かくした。私が小さな頃、母が台所でおでんを作っていると、私はよくその傍に寄ってきて、味見をしたり、手伝ったりしていた。あの頃はただの遊びだったけれど、今考えると、それがとても大切な時間だったと感じる。

冷たい空気がキッチンに流れ込むのも気にせず、私は夢中でおでんを作った。だしの香りが立ち込め、だんだんとその温かさが部屋に広がっていく。煮込みながら、思わずにんまりと笑ってしまう。これぞ、冬の幸せな瞬間だ。

おでんの具材が煮えるにつれて、家の中もどんどん温かくなっていく。その温かさに包まれて、少しずつ心の中の寒さも溶けていくようだった。あの冷たい夜の空気の中でも、こんな風に自分を温められることが嬉しかった。

「さあ、できた！」

鍋を火からおろし、お皿に盛りつける。出来上がったおでんを見た瞬間、その見た目だけで心が満たされる気がした。温かい大根、ふわっと柔らかい玉子、そしてつみれやはんぺんが色とりどりに並ぶ。そのひとつひとつに思い出が詰まっているようで、食べるのが少しもったいない気がした。

まずは、玉子から一口。卵の黄身がとろりと溢れ出し、そのまろやかな味わいが広がる。次に、大根を口に運ぶ。しっかりとだしが染み込んでいて、噛むたびにその味が広がり、体の芯から温まっていくのが感じられる。

「やっぱり、おでんって最高だな…」

一口食べるごとに、心も体も温かくなっていく。この温かさは、ただの料理じゃなくて、家族や温もり、思い出が詰まっているからこそのものだと改めて感じる。そして、私はそのひとときを大切にしようと思った。

おでんを食べながら、ふと気づく。母から受け継いだ味を、これからは自分が作り続ける番だと思った。それは、なんだか不思議な責任感にも似た気持ちだった。

「この味、誰かに伝えていこう。」

そう思いながら、ひとりのおでんの夜を静かに楽しんだ。