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春秋花壇

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母の手紙

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「母の手紙」

冬の寒さが肌を刺すある朝、健一のもとに一通の手紙が届いた。差出人の名前は書かれておらず、見覚えのある筆跡だけが、健一の記憶を呼び起こす。封を切ると、便箋に美しい字でこう書かれていた。

「健一へ

元気でやっていますか?寒くなってきたから、風邪をひかないように気をつけてね。最近、あなたがどうしているのか、ふと思い出すことが増えました。母さんがもうそばにいないこと、寂しく思うこともあるかもしれない。でも、そんな時はどうか、私たちが共に過ごした日々を思い出してください。」

健一は小さな頃から母子家庭で育った。母はいつも仕事に忙しく、二人きりの家は温かい食卓で満たされることも少なかった。母のことが大好きだったのに、少しずつ距離を感じるようになり、思春期になると、その感情が強くなっていった。

大学に進学する頃には、健一は家を出る決意を固め、母のもとを離れた。それ以来、二人は年に数回顔を合わせるだけになってしまったが、健一の中ではその距離がどんどん広がっていくように感じていた。大学を卒業し、仕事に追われる生活が始まると、健一はますます母との連絡を疎かにした。それでも、母は定期的に手紙を送ってくれていた。

手紙を読み進めるうち、健一の心に積もっていた忘れ物が、少しずつ蘇っていく。

「私は何も言わなくても、いつもあなたのことを見守っていました。忙しい毎日で、あなたに寂しい思いをさせてしまったこと、悔やんでいます。あなたが幼い頃、私が出かけると、いつも窓から手を振ってくれたね。あの小さな手が見えなくなるまで、私は何度も振り返りながら歩いていました。あなたの笑顔が、私の人生の光でした。」

気づけば、健一の目には涙が溢れていた。母が健一のためにどれだけの思いを抱いていたかを、今になって知るのはあまりにも遅すぎる気がした。

「どうか、あなたの道を歩んでください。私はあなたを信じています。あなたがどんな道を選ぼうとも、私はそれを応援します。」

便箋の最後には、母が愛情を込めて書いた署名が添えられていた。「愛を込めて、母より」。

手紙を読み終えたとき、健一は久しぶりに母に電話をかけようと思った。ずっと気づかずにいた温かさが、心に染み渡るように感じられた。母と過ごした日々、笑顔、何気ない優しさ——それらが彼の中で大切な宝物として輝き始めたのだ。

健一は震える手でスマートフォンを手に取り、母の番号を押した。呼び出し音が鳴り、ついに母の声が聞こえた。

「もしもし、健一?どうしたの、こんな早くに」

その声は、どんな冷たい朝も包み込んでくれるような温かさがあった。

「母さん…、手紙、ありがとう。今まで、全然気づいてなくてごめんね。俺、すごく母さんのことが…大切なんだ。」

言葉が途切れ、涙で声がかすれる健一を、母はそっと励ましてくれた。

「健一、泣かないで。私の宝物はあなたなのよ。そして、今もこうしてあなたが電話をくれたことが、何よりの贈り物よ。」

電話を切った後、健一の心には深い安堵と喜びが満ちていた。母との距離を再び埋めるため、彼はこれからも手を伸ばし続けるだろう。









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