生きる

空を見上げる鷹

「空を見上げる鷹」

学校の昼休み、カズキは友人たちが話す会話をぼんやりと聞いていた。「テスト、俺がクラスで一番だったよ！」「俺はサッカー部でレギュラー取れたし、次の試合もスタメン確定だぜ！」といった声が飛び交い、彼らは互いの成果を自慢し合っている。カズキはその中に混ざらず、ただ彼らの様子を見つめていた。どこか心がざわざわするが、自分がこの話題に加わっても意味がないと分かっていた。

カズキも成績は悪くないし、スポーツも得意な方だが、周りと「誰が勝ったか、負けたか」で一喜一憂することには昔から興味がなかった。周りの友人たちが「勝利」の話題で盛り上がるのを聞くたびに、「自分も勝たなきゃ」「負けたらダメだ」というプレッシャーを感じてしまうのが嫌だった。

そんなある日、カズキは放課後、家の近くの小高い丘に登った。その丘は、昔からカズキがよく来る場所だった。特に心がざわつくときや、何か考えたいことがあるときにはこの場所が心地よかった。

空を見上げると、遠くの空に一羽の鷹が悠然と飛んでいるのが見えた。鷹は風に逆らうこともなく、ただ自然に身を任せるように、力強くも穏やかな翼の動きで空を舞っていた。カズキはその鷹をじっと見つめていた。風に乗り、どこまでも遠くへと飛んでいくその姿は、何にも縛られずに自由で、ただ前に進むだけの強さが感じられた。

カズキはふと、「鷹が他の鳥と自分を比べることなんてあるんだろうか？」と考えた。空を飛ぶ能力は誰よりも優れているのに、他の鳥たちと勝負する様子は見られない。鷹にとっての目標は、他の鳥と競って自分の強さを証明することではなく、ただ空を飛び、獲物を捕らえ、そして次の瞬間に向かって生きていくことなのだろう。

そのとき、カズキは思った。自分も、誰かと勝ち負けを争うことよりも、ただ自分の目標に向かって進むだけでいいのではないかと。友人たちがいくら「勝った」「負けた」と騒いでいても、それは彼らにとっての経験であり、成長の過程だ。自分もまた、別の形で自分だけの経験を積み重ねていけばいいのではないだろうか。

カズキがふと思い出したのは、過去に何度か挑戦したサッカーの試合のことだった。勝ったときも、負けたときもあったが、その結果よりも自分がどれだけ楽しんでプレイできたかが、一番記憶に残っている。そして試合後に、「次はもっとこうしてみよう」「次の目標はこれにしよう」と新しい挑戦を見つけた自分の気持ちの方が、勝ち負けよりもずっと大切だった。

鷹が空を見渡すように、自分ももっと広い視野で人生を見つめれば、きっと「勝ち負け」に囚われる必要なんてないのだろう。「それも経験だ」と淡々と受け止め、次の目標に向かって進めばいい。

夕陽が丘の上を照らし始め、空が美しい橙色に染まってきた。鷹はいつの間にか見えなくなっていたが、カズキの心にはその姿がしっかりと焼き付いていた。「俺も、誰かと比べるんじゃなくて、自分だけの空を飛べばいいんだ」と、彼は静かに決意した。

その帰り道、カズキの心はなぜか軽やかだった。家に帰ってからも、友人たちの「勝った」「負けた」に振り回されることなく、彼は自分の次の目標を見据えて進んでいくことにした。

そしてカズキはまた一歩ずつ、自分の空を目指して歩き始めた。