生きる

春秋花壇

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良かった探し

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良かった探し

「本当に大丈夫か?」

高橋玲奈は、一人暮らしをしているアパートの窓の外を眺めながら、自分に問いかけた。秋風が少し冷たく、空は厚い雲に覆われていた。午後の時間がゆっくりと流れ、道行く人々の足音が遠くから聞こえる。玲奈の部屋は、雑然としたものが多く、片付けようとするとすぐに気が遠くなる。特に最近、気持ちが沈みがちで、何かをする気力が湧かない。

「どうして、こんなに何もかもがうまくいかないんだろう」

それが最近、玲奈が毎日自分に対して言っている言葉だった。仕事では上司に評価されず、同僚との関係もどこかぎこちない。プライベートでも、気がつけば友達とも疎遠になり、恋人とも別れた。気がつけば、周りには誰もいない気がして、気が滅入ってしまう。

その日も、玲奈は仕事を終えて帰る途中、無意識に足が歩道を踏み外していたことに気づいた。自分でも驚くほど、足元がふらついていたのだ。それだけではなかった。今日一日を振り返ると、何も良いことがなかった。

同僚とランチを一緒にする約束をしていたのに、急に予定が変更になり、結局一人で食べた。仕事が終わるとすぐに会社を出たのに、電車は遅延し、家に帰るのに時間がかかった。家に帰っても、部屋が散らかっていて、掃除しようにも気力が湧かず、テレビもつけっぱなしにしていた。なんでもないことが、全て負担に感じてしまう。

その日、玲奈はふと、職場の先輩が言った言葉を思い出した。

「良かったことを探してみなよ」

その言葉は、まるで心の中でこだましているように響いた。それは、ある意味、玲奈にとって励ましのように感じられた。だが、その一方で、良かったことなど思い出せないと思う自分がいた。

「良かったことって何だろう?」

玲奈は、無意識に目を閉じた。しばらく何も浮かんでこなかった。でも、何かが違う。心の中で、少しずつ変化を感じた。確かに、最近は毎日がつらくて、うまくいかないことばかりだが、少しだけでも良かったことを探してみることができるんじゃないかと、ふと感じたのだ。

玲奈は、ゆっくりと目を開けて、窓の外を見つめた。道路の向こうには、色づいた紅葉が揺れている。秋の空気が少しだけ澄んでいて、心地よかった。昨日の夕焼けが思い出される。あれは本当にきれいだった。赤く染まった空が、まるで絵画のようで、思わず息をのんだことを覚えている。

「あれは良かった」

小さな声で、玲奈はそうつぶやいた。その一言に、心が少し軽くなったような気がした。良かったこと。実は、日常の中に、無数にあるのかもしれない。でも、それに気づかないだけで、何も良いことがないように感じていたのだ。

玲奈は、自分を少しだけ励ますことに決めた。今日一日を振り返ってみると、確かに嫌なこともあったが、ほんの少しでも自分にとって「良かった」と思えることがあることを発見した。それが、こんなに自分を元気づけるとは思っていなかった。

彼女は、部屋の片隅にある本棚を見つめた。今まで、なかなか本を読んでいなかったが、少しでも何かをして気を紛らわせるのもいいかもしれない。本を一冊手に取ると、背表紙に書かれたタイトルが目に入った。それは「小さな幸せを探して」という本だった。

玲奈はそのタイトルに引き寄せられ、ふと手に取った。それが、彼女の心をまた動かした。

「小さな幸せ……」

心の中でその言葉を繰り返しながら、彼女は椅子に座った。そして、本を開いてみることにした。

本の内容は、日常の中で見逃しがちな幸せを見つける方法について書かれていた。小さなことに目を向けてみることで、心の中に余裕ができ、人生がもっと楽しくなるというメッセージが込められていた。その一節が、玲奈の心に深く響いた。

「今日、これを見て、いいなと思った。それが、良かったことだ」

玲奈はその瞬間に、心の中で何かが変わるのを感じた。すべてを完璧にしようとしなくても、小さな幸せを見逃さずに、毎日を生きることが大切なのだ。何か大きな成果を出すことがすべてではない。小さな幸せを感じることこそが、人生を豊かにするのだと気づいた。

それから玲奈は、毎日、日記をつけることに決めた。その日あった「良かったこと」を、小さなことでもいいから書き留めてみることにした。すると、少しずつ心が明るくなり、目の前の景色が少しずつ変わっていくのを感じた。

そして、次第に、彼女はその「良かったこと」を大切にし、毎日の小さな幸せを感じることができるようになった。それが、玲奈の心を少しずつ強くしていったのだ。

「今日も、良かったことを見つけられた」

玲奈は笑顔で、自分に言った。










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