生きる

春秋花壇

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限りある時の中で

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「限りある時の中で」

風が少し冷たくなり始め、秋から冬へと季節が移り変わる中、菜月は静かに湖畔のベンチに座っていた。穏やかな水面が、彼女の心にひそやかな安らぎを与えてくれる場所だった。この場所には、彼女と彼、健一がいつも一緒に過ごした思い出が詰まっていた。

健一とは、大学時代に出会った。当時から彼はとても明るく、いつも場の空気を和ませる存在だった。そんな健一に、菜月はいつしか心惹かれていた。彼の隣にいると、日常が輝き出すようで、二人で過ごす時間が何よりも幸せだった。

卒業してからも二人は自然に一緒にいることが多くなり、やがて恋人としての関係が深まっていった。互いに仕事に忙しい日々の中でも、二人で未来を描くことが楽しみで、結婚や家族のことも話し合うようになった。

しかし、その未来は突然途絶えた。ある日、健一が病気で余命を告げられたのだ。まだ若く、これからという時に、二人の幸せな日々が突如として終わりを迎えようとしていた。

「どうして、私たちが…」

菜月はその現実に苦しみ、何度も涙を流した。健一もまた、病室のベッドで虚ろな目をしていた。明るく楽しい彼の姿はそこにはなく、ただひたすらに時間が流れるのを待つだけのように見えた。

ある日、病室でふとした瞬間、健一が彼女に静かに言った。

「菜月、俺たちに限られた時間があるからこそ、今できるだけ幸せでいよう。」

菜月はその言葉に驚き、言葉を失った。彼が病と向き合いながらも、最後の瞬間まで菜月と共に笑って過ごしたいと思ってくれていることが伝わってきた。

それから二人は、限られた時間を精一杯生きることにした。菜月は彼と共に、少しでも多くの思い出を作りたいと思い、健一もまた病を忘れるかのように、菜月と一緒に小さな幸せを探し続けた。外出できる時には二人で出かけ、病室でもささやかな笑顔のやり取りを大切にした。

そして、最後の冬が近づくある日、健一は菜月にこう言った。

「菜月、俺はこの限られた生の中で君に出会えて本当に幸せだった。だから、俺がいなくなっても、君には幸せでいてほしい。終わりがあるからこそ、今のこの瞬間が尊いんだ。」

その言葉は菜月の胸に深く刻まれた。彼が最後まで笑顔でいようと努めていたことが、彼女の心を支えた。そして、その言葉は彼の逝去後も菜月の中で生き続け、彼女の心に力を与え続けた。

彼を失った悲しみは尽きなかったが、彼との限りある時間の中での思い出が、彼女の心の中に生き続けていた。彼と過ごしたかけがえのない瞬間が、今を生きる力を与えてくれた。

いつの日か、菜月はまたあの湖畔のベンチに座り、静かな湖面を見つめた。そして、心の中でそっと健一に語りかけた。

「あなたの言葉があったから、私は今も生き続けられています。限られた時の中で、幸せを見つけることができた私たちのように、これからも私は、私の限られた生を大切にしていくね。」

終わりのある人生だからこそ、その中で見つけた小さな幸せの輝きが、菜月のこれからを照らし続けるのだと思えたのだった。






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