生きる

生姜蜂蜜湯のぬくもり

生姜蜂蜜湯のぬくもり

秋が深まり、気温が一気に下がり始めた頃、佳奈子は風邪をひいてしまった。鼻水が止まらず、夜中には咳で目を覚ましてしまうほどで、体もだるい。もともと忙しい生活の中で、自分の体調管理が疎かになりがちな佳奈子は、どうにかしてこの風邪を早く治したいと考えていた。

仕事から帰ってくると、佳奈子は疲れた体を引きずりながら台所へ向かった。ふと、幼い頃、母が作ってくれた「生姜蜂蜜湯」を思い出した。鼻水が止まらない時や咳がひどい時には、母は台所でそっと生姜をすりおろし、蜂蜜をたっぷりと加えた温かい飲み物を作ってくれたものだった。あの温かさが喉を通るとき、じんわりと体が温まる感じが今でも記憶に残っている。

「久しぶりに、自分で作ってみようかな」

佳奈子は冷蔵庫から生姜を取り出し、すりおろし始めた。やや力を入れてすりおろしていると、生姜特有の少しピリッとした香りが広がり、どこか懐かしい気持ちが胸に湧き上がった。小さな鍋にお湯を沸かし、すりおろした生姜を少しずつ加えていく。お湯がふつふつと温まり始めると、部屋全体に生姜の香りが漂い、自然と鼻が通るような気がしてきた。

「蜂蜜を加えるタイミングは、母がよく話してくれていたな」

佳奈子はそう思い出しながら、湯気が上がり始めた鍋に、スプーン一杯の蜂蜜をそっと入れた。甘い香りが混ざり合い、生姜の辛味が少し和らぐ。その瞬間、幼い頃の記憶が蘇り、母の優しい顔が脳裏に浮かんだ。母が自分のためにこの生姜蜂蜜湯を作ってくれていた時も、きっとこんな風に丁寧に作ってくれていたのだろう、と心がほっと温かくなった。

出来上がった生姜蜂蜜湯をマグカップに注ぎ、ゆっくりと口をつけると、辛さと甘さが程よく混じり合い、喉を優しく潤していった。体の奥からじんわりと温かさが広がり、鼻や喉の不快感が少し和らぐようだった。ひと口、またひと口と飲むたびに、佳奈子の体のだるさが次第にほぐれていくような気がした。

その夜、佳奈子は久しぶりに深い眠りにつくことができた。生姜蜂蜜湯が喉の痛みを和らげ、鼻通りもよくしてくれたおかげか、夜中に咳き込むこともなく、朝までぐっすりと眠れた。翌朝、目が覚めると、鼻水や喉の痛みも少しだけ和らいでいるのを感じ、佳奈子はなんとも言えない安堵感に包まれた。

その日も仕事の合間に少しずつ生姜蜂蜜湯を飲みながら、佳奈子は元気を取り戻していった。生姜の辛味と蜂蜜の甘味が体を芯から温め、次第に風邪も回復に向かっていると実感することができた。そして、あのぬくもりの中には母の愛情が込められていたのだと気づき、佳奈子の心は再び温かくなった。