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春秋花壇

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焼き梅干しにはちみつ

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焼き梅干しにはちみつ

冬の冷たい風が吹き荒れるある日、風邪のひきはじめを感じていた俺は、家の中でごろごろと過ごしていた。鼻がむずむずし、喉が少しイガイガする。こんな時、いつも母が作ってくれた焼き梅干しにはちみつを思い出す。体が温まるし、梅干しの酸っぱさと甘さが絶妙に組み合わさって、風邪に効くと言われていた。

昔、まだ子供だった頃、母は毎年冬になるとこの料理を作ってくれた。「これを食べれば、すぐに元気になるからね」と微笑みながら言っていた。焼き梅干しにはちみつをたっぷりとかけて、熱々のご飯に乗せて食べる。その味は、風邪を引くたびに俺にとっての特効薬だった。

だが、今は一人暮らし。母の味を再現するのは簡単ではないが、何とかしてみることにした。冷蔵庫を開けると、梅干しは見当たらなかった。仕方なく、近所のスーパーへ向かう。冷えた体を温めるために、さっと厚着をして外に出た。

スーパーに着くと、梅干しのコーナーを探す。小さなパッケージが並んでいて、懐かしさがこみ上げる。手に取った梅干しを見つめながら、母が作ってくれた時のことを思い出していた。あの頃の温かさが、今も心に残っている。

帰宅すると、早速梅干しを焼く準備を始める。フライパンに梅干しを並べ、弱火でじっくり焼いていく。香ばしい香りが漂ってきて、胸が温かくなる。焼き色がついてきたら、はちみつをたっぷりかける。甘さと酸っぱさが絶妙に絡み合い、心がほっこりする。

出来上がった焼き梅干しにはちみつを、熱々のご飯の上に乗せる。食欲が刺激され、無心で食べ始めた。梅干しの酸っぱさが口の中に広がり、次第にはちみつの甘さが絡みつく。子供の頃の記憶が蘇り、母の愛情がこの一皿に詰まっているように感じた。

「これで風邪も治るだろう」と自分に言い聞かせながら、どんどん食べ進める。食後は、少し横になって休むことにした。心地よい満腹感が体を包み込み、少しだけ眠りに落ちる。夢の中では、母の声が聞こえてきた。「風邪には気をつけなさいね。ちゃんと食べることが大事だから。」

目が覚めた時、少し体調が良くなっていることに気がついた。焼き梅干しにはちみつが効いたのだ。ほっと胸を撫で下ろしながら、また次の日も作ることを心に誓った。母の味は、いつでも俺を癒してくれる。

それから数日が経った。風邪はほとんど治り、俺の心も少し軽くなった。毎日、焼き梅干しにはちみつを食べ続けることで、元気が戻ってきたからだ。そして、ふと考える。母の料理は、ただの食べ物ではなく、愛情が詰まった心の栄養源なんだと。

この体験を通じて、俺はもっと料理を学びたいと思うようになった。いつか、母のように人を癒すことのできる料理が作れるようになりたい。それが、俺の新たな目標となった。

「ありがとう、母さん。」小さな声でつぶやくと、心が温かくなる。これからも、焼き梅干しにはちみつの魔法を信じて、日々の生活を大切にしていこう。風邪のひきはじめには、この特効薬が一番だと確信していた。











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