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深い闇の底で
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「深い闇の底で」
裕也はある日、診察室で医師からデパケンを処方された。医師は、彼の気分の浮き沈みを和らげる効果があると言った。気が滅入り、何もする気が起きない日が続く裕也にとって、その言葉はどこか救いの光のように感じられた。「これを飲んで少しでも気分が安定すれば…」そう思い、裕也は薬を手に取り、自宅に戻った。
最初に薬を飲んだのは夜だった。いつもなら眠りにつくまで頭の中がざわめくのに、その日は不思議と穏やかな眠りにつくことができた。だが、それは一瞬のことだった。次の日、朝目覚めたときから、裕也の心には説明し難い不安と重さがのしかかっていた。日差しが窓から差し込んでいたが、それを見ても何も感じることができない。むしろ、無理やり起きること自体が苦痛だった。
数日が過ぎ、裕也の気持ちはますます深い暗闇に引きずり込まれていくようだった。何をしても楽しめない、何も感じない。ただ、全てが虚しく、疲れていくばかりだ。そして、その闇は徐々に色濃く、重く彼を包み込んでいった。
ある夜、眠れずにベッドの中で目を閉じていた裕也は、ふと「もうこのまま目覚めなければいいのに」と考えている自分に気付いた。心の奥底に沈んでいた思いが、静かに顔を出し始めたのだ。そんなことは考えないようにと努めてみても、頭からその思いが離れない。
さらに、ふとした瞬間に家の中にあるものが彼に訴えかけてくるような錯覚に陥るようになった。「窓から見えるあの景色が、もう二度と見えなくてもいいんじゃないか」そうした考えが、いつの間にか日常の一部に染みついてきた。
「これは薬のせいなんだろうか…」裕也は頭を抱えた。薬を飲んで少しでも楽になるはずだったのに、気持ちはますます沈んでいくばかりだ。そして、その沈み方は今まで経験したことがないほど深く、冷たく感じられた。
ある日、いつも通り薬を飲んでから数時間が経った頃、裕也の胸にふとした悲しみが襲ってきた。涙が自然と溢れて止まらない。理由はない。ただただ悲しくて、虚しくて、何もかもが意味を成していないように感じる。そんな中、裕也は少しずつ、これ以上この状態を続けることに耐えられないと感じ始めていた。
やがて裕也は、薬をやめる決心をした。それが医師の指示に反する行動だということは分かっていたが、自分の心と体が耐えられないと思った。ある夜、ふと薬の瓶を見つめると、瓶に詰まった小さな粒が彼に向かって囁いているように感じられた。「このまま、もう全部を終わらせてもいいんじゃないか…」
裕也は強く目を閉じ、深呼吸をした。何も感じない、ただの空虚な痛みが胸を刺す。それでも、彼の心にはどこか一筋の光を見出したいという、わずかな希望があったのかもしれない。彼はスマホを取り出し、無言で心療内科に電話をかけた。医師に全てを話す勇気はなかったが、何かが変わらなければならないという思いが、彼の指を動かしていた。
電話の向こうで医師が答え、裕也は震える声で「この薬、やめたいんです…」と告げた。医師は驚きつつも彼の話を最後まで聞き、「では、他の治療方法を一緒に考えましょう」と優しい声で答えた。
数日後、医師と相談のもと、裕也は新しい治療に取り組むことになった。まだ不安は完全には消えていなかったが、その夜は久しぶりに空を見上げ、星の光を眺めることができた。
暗闇の中にも、一筋の光があるかもしれない。そう信じる力を、裕也はようやく取り戻しつつあった。
裕也はある日、診察室で医師からデパケンを処方された。医師は、彼の気分の浮き沈みを和らげる効果があると言った。気が滅入り、何もする気が起きない日が続く裕也にとって、その言葉はどこか救いの光のように感じられた。「これを飲んで少しでも気分が安定すれば…」そう思い、裕也は薬を手に取り、自宅に戻った。
最初に薬を飲んだのは夜だった。いつもなら眠りにつくまで頭の中がざわめくのに、その日は不思議と穏やかな眠りにつくことができた。だが、それは一瞬のことだった。次の日、朝目覚めたときから、裕也の心には説明し難い不安と重さがのしかかっていた。日差しが窓から差し込んでいたが、それを見ても何も感じることができない。むしろ、無理やり起きること自体が苦痛だった。
数日が過ぎ、裕也の気持ちはますます深い暗闇に引きずり込まれていくようだった。何をしても楽しめない、何も感じない。ただ、全てが虚しく、疲れていくばかりだ。そして、その闇は徐々に色濃く、重く彼を包み込んでいった。
ある夜、眠れずにベッドの中で目を閉じていた裕也は、ふと「もうこのまま目覚めなければいいのに」と考えている自分に気付いた。心の奥底に沈んでいた思いが、静かに顔を出し始めたのだ。そんなことは考えないようにと努めてみても、頭からその思いが離れない。
さらに、ふとした瞬間に家の中にあるものが彼に訴えかけてくるような錯覚に陥るようになった。「窓から見えるあの景色が、もう二度と見えなくてもいいんじゃないか」そうした考えが、いつの間にか日常の一部に染みついてきた。
「これは薬のせいなんだろうか…」裕也は頭を抱えた。薬を飲んで少しでも楽になるはずだったのに、気持ちはますます沈んでいくばかりだ。そして、その沈み方は今まで経験したことがないほど深く、冷たく感じられた。
ある日、いつも通り薬を飲んでから数時間が経った頃、裕也の胸にふとした悲しみが襲ってきた。涙が自然と溢れて止まらない。理由はない。ただただ悲しくて、虚しくて、何もかもが意味を成していないように感じる。そんな中、裕也は少しずつ、これ以上この状態を続けることに耐えられないと感じ始めていた。
やがて裕也は、薬をやめる決心をした。それが医師の指示に反する行動だということは分かっていたが、自分の心と体が耐えられないと思った。ある夜、ふと薬の瓶を見つめると、瓶に詰まった小さな粒が彼に向かって囁いているように感じられた。「このまま、もう全部を終わらせてもいいんじゃないか…」
裕也は強く目を閉じ、深呼吸をした。何も感じない、ただの空虚な痛みが胸を刺す。それでも、彼の心にはどこか一筋の光を見出したいという、わずかな希望があったのかもしれない。彼はスマホを取り出し、無言で心療内科に電話をかけた。医師に全てを話す勇気はなかったが、何かが変わらなければならないという思いが、彼の指を動かしていた。
電話の向こうで医師が答え、裕也は震える声で「この薬、やめたいんです…」と告げた。医師は驚きつつも彼の話を最後まで聞き、「では、他の治療方法を一緒に考えましょう」と優しい声で答えた。
数日後、医師と相談のもと、裕也は新しい治療に取り組むことになった。まだ不安は完全には消えていなかったが、その夜は久しぶりに空を見上げ、星の光を眺めることができた。
暗闇の中にも、一筋の光があるかもしれない。そう信じる力を、裕也はようやく取り戻しつつあった。
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