生きる

春秋花壇

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本が読めない

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本が読めない

公園のベンチに腰掛けたあたしは、手にした本を見つめていた。背表紙には「幸福の見つけ方」と書かれている。ページをめくろうとしたが、指先が止まってしまった。視線は本の文字を追おうとするが、頭の中は真っ白だった。どうしても読めない。この瞬間、何かが自分を捕らえている気がした。

「またか……」

あたしは小さくため息をついた。以前は好きだった本を読むことが、今はまるで苦行のように感じていた。周りの人々が楽しそうに本を手にしている姿を見て、羨ましさが込み上げてくる。特に、あの子はいつも面白い本を持っているのに、あたしにはその楽しさが分からない。

「どうしたの?」と、突然声をかけられた。隣のベンチに座っていた若い男性だった。彼の目は優しさに満ちていて、あたしは思わず視線を外した。

「本が……読めなくて。」思わず口から漏れた言葉。正直に言ってしまった自分に驚いたが、何故か彼には本音を話せる気がした。

「そうなんだ。何が難しいの?」彼は興味深そうに尋ねてくる。

「ああ、ただ……昔は本を読むのが好きだったんだけど、最近はページをめくるだけで疲れてしまう。内容が頭に入ってこないの。」自分の言葉を聞いて、少し恥ずかしくなった。

彼はしばらく考えていたが、やがて「本を読むのは、時には心の状態に左右されることもあるよ。」と優しく言った。「もしよかったら、一緒に読んでみる? 誰かと一緒に読むと、少し気が楽になるかもしれない。」

「一緒に?」とあたしは驚いた。彼の提案が思いもよらなかったからだ。しかし、心のどこかでそのアイデアが魅力的に感じられた。特に、彼の優しい声が、不安を和らげてくれるように思えた。

「はい、お願い。」彼はにっこりと笑った。

彼は本を受け取り、まずあたしの肩を叩いてから、静かに読み始めた。彼の声が響くたびに、文字がまるで生きているかのように感じられた。あたしの心は徐々に和らいでいく。読んでいるうちに、彼がどんな風に物語を解釈するのかを知りたくなった。

「ああ、ここで彼女は……」彼が語ると、あたしは自分の心の中の思い出がよみがえるのを感じた。彼の声に合わせて物語が進むにつれ、自分もその世界に引き込まれていく。

「それにしても、どうして本が読めなくなったの?」彼は目を細めてあたしを見つめた。思いもよらない質問だった。答えることができるだろうか。

「多分、色々なことが重なったんだ。忙しい日々や、考えすぎたり、何かを背負いすぎたり……」心の奥深くに埋もれていた感情が、彼の優しい目に触れた瞬間、溢れ出てきた。

彼は静かに聞いてくれた。「大変だったね。でも、ここにいることが大事だと思う。少しずつ、自分を取り戻していけばいいんじゃないかな。」

その言葉に、少しずつ心が軽くなるのを感じた。あたしは無意識のうちに彼の言葉に耳を傾け、彼と一緒にいることが心地よいと感じるようになった。

公園の周りの風景が、少しずつ色づいて見えてきた。小鳥のさえずりや風の音、さらには彼の声が心地よいハーモニーを奏でている。読書が辛い日々から、彼との出会いが少しずつ新しい可能性をもたらしてくれた。

ページが進むにつれ、あたしの心も一緒に進んでいく。突如として読めない本が、彼と共に開かれる新たな世界となり、心の中に温かさをもたらしてくれる。エネルギーが湧き上がり、自分が本を再び愛することができるかもしれないと期待するようになった。

「じゃあ、次はこのページを一緒に読んでみようか。」彼が微笑みながら提案してくれた。あたしは嬉しさで胸がいっぱいになり、再び本を手に取った。

「うん、一緒に読もう。」あたしは彼に微笑み返し、心からそう答えた。

こうして、あたしは本を読むことができるようになり、彼との出会いが、失ったものを取り戻すきっかけとなった。日々の小さな幸せが、少しずつあたしの心を豊かにしていく。これからは、また本のページをめくるたびに、彼との思い出を思い返すことになるだろう。









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