生きる

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1,302 / 1,526

「数字と心の狭間で」

しおりを挟む
「数字と心の狭間で」

65kgから45kgまでの減量の過程で、美咲は自分の食事を丁寧に計画し、体に無理のない範囲で食事を減らすよう心がけていた。食事内容には特に注意を払い、タンパク質や野菜を中心に、油の質にもこだわり、炭水化物は適度に制限した。

ある日、彼女は自分の成功を記録しようと、TikTokに食事内容の動画を投稿した。それは、美咲が朝食、昼食、夕食に食べているものを紹介しながら、どのようにして理想的なバランスを取ってきたかを解説するものだった。彼女自身、自分の食事が健康的であると誇りに思っており、食べ過ぎだとは思わなかった。

「こんなに努力して、やっと理想の体重になれたのに。みんなに少しでも役に立てばいいな」と、笑顔で動画を公開した。

最初はポジティブな反応が多かった。「すごく参考になります!」「私も頑張ってみます!」という応援メッセージが溢れ、美咲の心は満たされていた。しかし、次第に画面に表示されるコメントの中に、冷たい言葉が混じり始めた。

「食べすぎじゃない?」「そんなに食べてるのに痩せたの?信じられない」「こんなに食べたらリバウンドするよ」といったコメントが次々と寄せられた。

美咲はその言葉に驚き、心が沈んだ。「どうしてこんな風に思われるんだろう…?」と、彼女は一人でスマホを見つめ、ため息をついた。今までの努力が無駄だったかのような気持ちに押し潰されそうになった。

「食べすぎ…?」彼女は自分の食事をもう一度振り返ってみた。鶏胸肉のグリル、彩り豊かな野菜、少量の玄米…決して豪華ではないが、栄養バランスは完璧だと思っていた。ボディビルダーの食事も参考にしながら、自分なりに最善を尽くしてきた。それなのに、なぜこんな批判を受けなければならないのか、彼女には理解できなかった。

「もしかして、私は本当に食べすぎなの?」自分に疑念を抱き始めた彼女は、栄養士の友人である由美に相談することにした。由美は、美咲がダイエットを始めた時からアドバイスをしてくれていた心強い存在だった。

「美咲、そのコメント、気にしなくていいよ」と、由美はきっぱりと答えた。「あなたがやっていることは正しい。むしろ、食べ過ぎどころか、炭水化物が少ないくらい。もっとエネルギーを摂ってもいいくらいなんだから。」

由美の言葉に、美咲は少し安心した。「でも、あんなに批判されるとやっぱり不安になるよ…。何がいけなかったのかなって。」

「それは、他の人たちがあなたの努力を理解していないだけだよ。多くの人は、極端に食事を減らしたり、栄養を無視したダイエットをしてるんじゃないかな。だから、あなたのしっかりした食事が“多すぎ”に見えるのかもしれない。でも、そんな無理なダイエットをしていると、逆に体に悪影響が出ることが多いんだから。」

美咲は、由美の言葉に励まされながら、過去を思い返した。65kgだった頃の自分は、常に食事制限や運動に対するプレッシャーに押し潰されそうだった。何を食べても罪悪感がつきまとい、体重計の数字に一喜一憂していた日々が続いた。

それが、由美のアドバイスを受けて食事内容を見直したことで、少しずつ変わり始めた。無理な制限をせず、栄養バランスを考えながら食べることで、健康的に痩せることができたのだ。体調もよくなり、以前よりもエネルギッシュな日々を送れるようになった。

「私のやり方は間違ってないんだよね」と、美咲は再び自信を取り戻し始めた。

「そうよ。美咲、あなたは自分の体を大切にして、無理のないダイエットを成功させたの。大事なのは、結果を出すことじゃなくて、その過程で自分をどう扱うかよ。自分の体と心を尊重することが一番大切なんだから。」

美咲はその言葉に深くうなずいた。「うん。もう気にしないことにするよ。自分が信じてきたことを大事にする。」

その後も、彼女のTikTokには様々な意見が寄せられたが、美咲はそれを気にすることなく、自分のペースで情報を発信し続けた。応援してくれる人たちの存在を大切にし、時には「ありがとう」とコメントを返すことも増えた。

そして、彼女は心の中で決めていた。これからも健康的でバランスの取れた食事を続け、誰に何を言われても、自分の体と向き合い続けることを。

美咲にとって、最も大切なのは、見た目や数字ではなく、自分自身を大切にすることだった。









しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

妻と愛人と家族

春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。 8 愛は決して絶えません。 コリント第一13章4~8節

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...