生きる

暗闇に咲く花

「暗闇に咲く花」

森田涼介は、今日もまたニュースを見ながらため息をついた。近頃、テレビでは詐欺や強盗の事件が頻繁に報道されている。「またか…」と彼は呟いた。高齢者が狙われ、貯金が奪われる振り込め詐欺や、若者がSNSを通じて犯罪に巻き込まれる事件。強盗事件も増加し、夜道を歩くのさえ恐怖を感じるようになっていた。

「こんな世の中、どうなってるんだ…」

涼介は自分の生活も決して安定しているとは言えない状況だった。大学を卒業してから数年間、非正規雇用で働き続けているが、給料は低く、将来への不安が募るばかりだ。物価はどんどん上がっていくのに、彼の賃金はほとんど変わらず、生活は苦しくなる一方だった。自分で稼いだお金でさえ、家賃や光熱費、食費に消えていき、貯金など夢のまた夢。

ある日、涼介は友人の高橋に誘われて、久しぶりに居酒屋で会うことになった。二人は高校時代からの親友だったが、最近は仕事の忙しさもあってなかなか会う機会がなかった。

「お前、最近どうだ？」高橋はビールを一口飲みながら尋ねた。

「まぁ、相変わらずだよ。仕事はあるけど、給料は少ないし、将来が見えないって感じかな。物価が上がってるのに、全然給料が追いつかないし、正直どうやって生活していけばいいのかって感じだよ」

「わかるよ。俺も似たようなもんだ。フリーランスでやってるけど、収入は安定しないし、税金も高い。最近、知り合いが詐欺に引っかかったんだ。仕事がなくて困ってたときに、楽に稼げるって話に乗っちゃって、結局大金を取られたんだよ。なんか、こういう犯罪が増えてるって聞くけど、世の中全体が荒れてる気がするよな」

「そうだな…。俺たちの世代って、就職氷河期もあったし、ずっと不安定だよな。景気が悪くなると、詐欺や強盗が増えるって聞いたことあるけど、今の状況がそれを助長してるのかもしれないな」

二人はしばらく黙ってグラスを傾けた。周囲の雑音が耳に届くが、どこか遠く感じた。

「でもさ、俺たちがこんなに苦しんでるのに、一部の人間はやたらと金を持ってるよな。ニュースで見たんだけど、大企業の経営者は何億も稼いでるとかさ。それに比べて俺たちは、毎日必死に働いても貧乏生活だ。なんかバランスが悪いよな」

「ほんとにな。経済が停滞してるって言うけど、結局そのしわ寄せは俺たちみたいな普通の人間に来てるんだろうな」

涼介はその夜、帰り道で思った。詐欺や強盗が増えているのは、単に個々の人間の悪意だけではなく、社会全体が崩壊しつつあるからではないか。経済が停滞し、雇用が不安定になり、生活が成り立たなくなっていく。それが、人々を犯罪へと追い込んでいるのかもしれない。

次の日、涼介は仕事に行く前に、ふとスマホでニュースを見ていた。そこには、また新しい詐欺事件の報道があった。高齢者が騙され、大金を奪われたという話だった。涼介は心が痛んだが、同時に、もし自分も追い詰められたら、同じように誰かを傷つけてしまうのではないかという恐怖が心に芽生えた。

その日、職場での作業を終えた後、涼介は帰り道でふと立ち止まった。通りには薄暗い街灯が灯り、どこか冷たい風が吹いていた。彼は胸の中に抱えた不安と葛藤を振り払うように、静かにつぶやいた。

「俺たちは、何を信じればいいんだ…？」

涼介は明日もまた同じ日常が続くだろうと知りつつも、心のどこかで変化を求めていた。しかし、その変化が自分の力で起こせるものなのか、社会全体が変わらなければならないものなのか、その答えはまだ見つかっていなかった。

家に戻り、ベッドに横たわると、ふとスマホの画面を開いていた。そこには、何かを変えようとする若者たちの声が広がっていた。SNSでのつぶやきや、デモの呼びかけ、ボランティア活動。彼らの小さな行動が、少しずつ世の中を変えようとしているように見えた。

「俺も、何かできるのかもしれない…」

涼介はそう思いながら、眠りについた。その夢の中では、暗闇の中に咲く一輪の花が静かに揺れていた。それは希望という名の花だった。