生きる

モノポリー

「モノポリー」

大学時代の友人たちと久々に集まることになった。僕たちは年に一度、必ず集まっては昔のように何かしらのゲームを楽しむという習慣があった。今年のテーマはボードゲーム。特に、僕たちが学生時代に熱中していた「モノポリー」をプレイすることになった。

場所は友人のケンジの自宅。彼は都会の中心に立派なマンションを構えており、その広いリビングには友人たちが集まっていた。久々に会う仲間たちの顔は少し大人びていたが、学生時代の面影もどこかに残っている。

「おっ、ようやく全員そろったな。さあ、始めるか！」

ケンジが誇らしげにモノポリーの箱を取り出し、テーブルに広げた。ダイスを振り、僕たちの戦いが始まる。

初めのうちは、みんな和やかな雰囲気でゲームを進めていた。少しずつ物件を買い集め、次第に街を開発していく。しかし、モノポリーというゲームは、進行していくうちに必ずと言っていいほど緊張感が高まり、勝負に対する執着が増していく。無邪気なスタートから数ターン後、場の空気は少しずつ変わっていった。

「その物件、俺が買ったほうがいいんじゃないか？」トシが挑発的にケンジに言う。

「いや、ここは俺の手中にあるべきだ。」ケンジは決して譲らない姿勢で答えた。

やがて、交渉が過熱していく。モノポリーは単純なゲームではない。お金のやり取りだけでなく、交渉力や戦略が重要で、場合によっては友情を試されることもある。

僕は慎重に物件を買い進めていたが、決して大きなリードを取ることはなかった。少しずつチャンスを見極め、誰とも対立しないように立ち回っていた。しかし、それは次第に崩れていく。

「おい、ユウタ、そこの土地、俺に譲ってくれよ。」ケンジが僕に声をかけてきた。

彼の目は冷静さを保ちながらも、その背後に熱意が隠れていた。彼はもうかなりの物件を所有しており、独占まであと一歩という状況だった。譲れば彼が一気に勝利に近づくことは明白だ。だが、それを拒むと、彼のターゲットは僕になるかもしれない。ゲームはすでに心理戦の域に達していた。

「いや、譲れないな。この物件は今後の展開で重要なんだ。」

僕は平静を装いながら答えたが、心の中では緊張していた。ケンジは何も言わず、ただ頷いたが、その後の彼の行動が豹変した。

数ターン後、ケンジは僕に対して容赦ない攻撃を仕掛けてきた。物件を次々に買い占め、僕の進路を封鎖し、賃料で僕の資金を削り取っていく。僕はじわじわと追い詰められていった。仲間内の遊びだとはいえ、ケンジのやり方には正直、少し苛立ちを感じた。

「ケンジ、お前、ちょっとやりすぎだろ？」僕は思わず声を上げた。

「何言ってるんだよ、これがゲームだろ？手加減なんてしないほうが面白いんじゃないか？」彼は笑いながらそう言ったが、その目には冷たい光が宿っていた。

実は、ケンジには仕事のストレスが溜まっていた。大手広告代理店に勤める彼は、最近大きなプロジェクトのリーダーを任され、プレッシャーに押し潰されそうになっていた。彼の職場では、結果を出すことがすべてであり、ミスが許されない環境にいた。その結果、彼は日常生活でも成功と勝利に対する執着が強くなりつつあった。

「俺、最近仕事でミスしてさ。上司にこっぴどく叱られたんだ。だからもう、何が何でも成功しなきゃって思ってるんだよ。」

ケンジはゲーム中にふとそう漏らした。その言葉は軽いものに聞こえたが、彼の心の中では重くのしかかっていた。

モノポリーというゲームの中でさえ、ケンジは自分のプライドを賭け、勝つことで自分の価値を証明しようとしていたのだ。学生時代の仲間に対しても、弱さを見せたくなかったのだろう。だからこそ、彼は僕に対して容赦なく攻撃し、自分を守るような行動に出たのだ。

僕はその瞬間、ケンジの内面を垣間見た気がした。彼は単に勝ちたいというより、何かを証明したかったのだろう。彼の執拗な攻撃の背後には、仕事や社会に対するフラストレーションと、自己価値を求める葛藤が潜んでいた。