生きる

寒い…

「寒い…」

起きた瞬間、体中に冷えが染みわたった。東京は24℃のはずなのに、どうしてこんなに寒いんだろう。確かに、最近は気温の変動が激しいけど、こんなに体感温度が違うなんて不思議だった。

窓の外を見ると、まだ早朝の薄暗さが残っていて、冷たい風がカーテンを揺らしていた。湿気も少し感じるけれど、それ以上に肌に直接感じる冷たさが気になった。

「こんなに寒いなら、もう少し布団の中にいたい…」と考えつつ、起きなければならない現実が頭をよぎる。ベッドから出るのが一層億劫に感じた。

東京の24℃、普段なら過ごしやすい気温のはずだ。それでも、今日のこの「寒さ」はなぜか不意にやってきた。室内の冷房が効きすぎているのか、それとも疲れが溜まって体が過敏になっているのか。ふと、こうした寒暖の感覚が自分の心境とリンクしているのではないか、と少し考えてしまう。

心のどこかに、気温だけでは説明できない冷えを感じる。どこか、気持ちがまだ覚めきらない朝。

朝の寒さをどうにかしようと、私は湯呑に白湯を入れた。が、持ち上げようとした瞬間、熱さが手に伝わり、思わず湯呑をテーブルに置いた。

「あ、熱っ…！」

湯呑の表面は、温かいを通り越して火傷しそうなほどの熱さだ。もう一度持ち直そうとしても、どうにも熱くて持てない。「これは無理だな…」と私はしばらく白湯を前に座り込んだ。湯呑を見つめながら、ふと頭に浮かんだのは、カップの取っ手のことだった。

「やっぱり、取っ手って便利だな…」

普段何気なく使っているマグカップの取っ手が、こんなに大切だと感じたことは今までなかった。取っ手があるだけで、熱いものを安心して持てる。昔の人がこれを考えたのかと思うと、その知恵に感心せざるを得ない。何気ない生活の中に、私たちは先人たちの知恵をたくさん使っているんだ。

湯呑を前に、今の自分が当たり前に使っているものすべてに、ふと考えが及んだ。

例えば、今こうして「白湯」という言葉を使っているけれど、この言葉自体も長い歴史の中で人々が生み出し、継承してきたものだ。白湯が体にいいと知っているのも、誰かがその効果を見出し、後の世代に伝えてきたおかげだ。

また、言葉だけでなく、私たちが毎日使う文字も同じだ。文字を書くことができるというのは、私たちが考えや感情を表現するために作られ、伝えられてきた知恵の集大成だ。たとえば「湯呑」という言葉も、こうして一つひとつの漢字が組み合わされている。それを知っている私たちは、その知識を当たり前に使いこなしているが、それがどうやって生まれて、どのように今に至ったかを考えると、先人たちの膨大な努力が目に浮かぶ。

湯呑の前でぼんやりと考え続けていると、湯呑の熱も少しずつ冷めてきた。もう一度手を伸ばしてみると、さっきほどの熱さはなく、今度はちゃんと持てるようになった。

「よし…これで温まろう。」

両手で湯呑を包むように持ちながら、一口、白湯をすすった。ほんのりとした温かさが体に広がっていく感覚が心地いい。白湯の優しい温もりとともに、心の中にあった冷えも少しずつ溶けていくようだった。

しばらくして、私は窓の外を眺めた。まだ薄暗い空が、少しずつ明るくなり始めていた。外の風は相変わらず冷たいけれど、白湯のおかげで少し気持ちが落ち着いたように感じた。今、こうして生きている自分の生活の中に、無数の知恵と工夫が隠れている。それに気付いた瞬間、感謝の気持ちが湧いてきた。

「昔の人たちって本当にすごいな…」

口に出してそう呟いてみた。言葉に出すと、なんだかその事実がもっとはっきりと感じられる。今私が何気なく使っているこの湯呑も、言葉も、日常のあらゆるものが、誰かの知恵の積み重ねでできている。

「私も何か、未来に残せる知恵を生み出せるかな？」

ふと、そんなことを考えてしまう。今の私にそんな大きなことはできないかもしれないけれど、小さな工夫や発見が未来の誰かに役立つかもしれない。それは、今日のように寒さをしのぐための一杯の白湯かもしれないし、言葉にできない感情を表現する方法かもしれない。

湯呑の白湯をもう一口飲み干しながら、私はそんな未来の自分を少しだけ想像した。

その時、また一つ、昔の人たちの知恵が自分の中にしみわたっていくような気がした。