生きる

永遠なんて、あり得るのか？

「永遠なんて、あり得るのか？」

佐々木健一は、これまで70年の人生を歩んできた。彼の周囲はすでに退職した友人たちや、年老いた家族で満ちていた。彼もまた、老いとともにゆっくりと暮らしを楽しんでいたが、最近はよく死について考えることが増えてきた。特に庭の手入れをしている時、ふと自分がいなくなる日が来ることを思うと、不安が襲ってくることがあった。

ある日の午後、彼の家を訪れた若い訪問者が、庭の花を眺めて「美しいですね」と感嘆の声をあげた。健一は誇らしげに微笑みながら、「そうだろう？ この庭を維持するのは大変だけど、それでも手をかける価値はある」と答えた。

その訪問者は、クリスチャンの奉仕活動をしている青年だった。彼はふと、健一に問いかけた。「佐々木さん、永遠に生きたいとは思われませんか？」

健一はその言葉に驚き、少し笑った。「永遠？ そんなのあり得ないだろう。人間はみんないつか死ぬんだ。それが当たり前だと思って生きてきたよ。」

青年は、穏やかな表情で続けた。「確かに、そう考える方が多いですよね。でも、この美しい庭や、花を育てる楽しみを永遠に感じ続けたいと思いませんか？ 私たちはみんな、自然の中に存在する美しさや喜びをもっと長く味わいたいと感じるものだと思うんです。」

健一は黙り込み、庭の花々を見つめた。ピンク色のツツジ、鮮やかなアジサイ、そして風にそよぐバラの花びら。彼が人生の中で手塩にかけて育ててきたこの庭は、彼にとって生きる喜びそのものだった。だが、やはりそれもいつか終わりを迎えることを知っていた。

「確かに、この花たちと別れるのは寂しいとは思う。でも、永遠に生きるなんて、現実的じゃないさ。そんな考え方をしても、無駄に思えるよ」と、健一はため息をついた。

青年は優しく頷いた。「佐々木さんの気持ち、よくわかります。実際、多くの人が永遠に生きることに対して懐疑的です。でも、私たちが持つその“永遠を望む気持ち”は、単なる幻想ではないと考えることもできます。例えば、私たちが美しいものに感動したり、長生きしたいと感じたりするのは、心の奥底にある本能かもしれません。」

「本能？」と健一は興味を持った。

「そうです」と青年は説明を続けた。「私たちが、自然の美しさや人生の素晴らしさを長く味わいたいと感じるのは、実は創造主が人間にそのような感覚を与えてくれたからではないか、と考えるんです。人間が短い時間で全てを理解し、楽しむのは難しいことですし、だからこそ、もっと長く生きてその美しさを味わいたいと望むのではないでしょうか。」

健一はその考えに耳を傾けたが、やはり心の中には疑念が残っていた。「でも、それでも実際には、いつか終わりが来るんだ。どれだけ永遠を望んでも、体は老いるし、寿命には限界がある。」

青年は穏やかに笑いながら、「それは確かに今の現実です」と認めた。「ですが、私たちの信仰では、未来には人々が永遠に生きることができる世界がやってくると信じています。自然の美しさを、永遠に楽しむことができる日が来るとしたら、どう感じますか？」

健一はその問いに一瞬、返答に詰まった。「永遠に生きられるって？ それが本当に可能なら、確かに素晴らしいかもしれないな」と、ぽつりとつぶやいた。

青年はその言葉を受け取り、さらに言葉を続けた。「私たちは、その可能性を信じて生きています。もちろん、今は実際にそうではないけれど、希望を持って生きることで、日々の喜びや感謝の気持ちが大きくなります。佐々木さんのように、花を愛し、自然を大切にする人こそ、その未来にふさわしいと思います。」

健一は、青年の純粋な言葉に少し心を動かされた。しかし、同時に現実的な疑念も消えなかった。「それでも、永遠というのはあまりにも壮大すぎる話だ。すぐには信じられないな。」

「もちろんです」と青年は微笑んで答えた。「急いで信じる必要はありません。ただ、その可能性を少し考えてみるだけでも、今後の見方が変わるかもしれません。永遠に生きることが不可能だと思う理由もありますが、もしそれが可能だったら、何をしたいか、何を感じたいか、そういったことを考えてみるのも悪くないかもしれませんよ。」

その言葉を聞いた健一は、再び庭を見渡した。風に揺れる花たちの優雅な姿を見ながら、彼はふと、「永遠」という言葉の意味を少しだけ考えてみた。

もしかしたら、人生の終わりが決まっているという現実を前に、彼はその現実を受け入れるしかないと信じてきたのかもしれない。だが、一方で美しいものをもっと長く味わいたい、別れたくないという気持ちも確かに心の中にあった。

「永遠か……」と、健一は静かに言葉を繰り返した。「そんな未来が本当にあるなら、悪くないかもしれないな。」

彼の心には、いつの間にか少しの希望の種が蒔かれていた。