生きる

命の選択

命の選択

静かな病室の中、白いカーテンが薄い光を遮り、淡い影を落としていた。安藤雅也（まさや）は、ベッドに横たわりながら、自分の身体の感覚を感じることができなかった。末期の病と診断され、数ヶ月の余命を宣告された。彼の心の中には、恐怖や絶望だけでなく、安らぎを求める思いもあった。

彼は、長い間苦しみ続けてきた。痛み止めの薬が効かず、身体が次第に自由を失っていくのを感じていた。医者との対話の中で、彼は「安楽死」の選択肢についても聞かされた。周囲からは様々な意見が飛び交ったが、彼自身の心は静まり返っていた。

ある日、彼は親友の大輔（だいすけ）を呼んだ。大輔は雅也の病を知って以来、毎日のように病室を訪れ、彼を励まそうとした。しかし、その優しさの裏にある無力感が、雅也には分かっていた。彼の目はどこか哀しみを含んでいる。

「雅也、今日はどうする？気分は少しでも良くなった？」大輔が優しく問いかける。

雅也は微笑むことができた。「うん、少しだけ。大輔、俺、実は考えてることがある。」

「何を？」大輔は心配そうに眉をひそめた。

「安楽死についてだ。もう痛みから解放されたい。」

大輔は驚き、言葉を失った。安楽死という言葉は、彼にとっても重かった。だが、雅也の目には明確な決意が宿っていた。「俺は、もう十分に生きた。家族や友人に迷惑をかけたくない。最後の選択として、自分の命を自分で決めたいんだ。」

大輔は何も言えなかった。心の中で葛藤しながら、彼は友人の選択を尊重しようと決意する。しばらくの沈黙の後、雅也が続けた。「大輔、俺の人生には幸せな瞬間もたくさんあった。でも、今はそのすべてが霞んでしまった。痛みから解放されることが、俺にとっての安らぎなんだ。」

大輔は無力感に打ちひしがれたが、雅也の選択を理解しようと努力した。彼は、雅也が選んだ道に対してサポートをすることを決意した。二人の間に静かな絆が生まれた。

数日後、雅也は医者と再度の面談を持った。医者は、彼の状態を詳しく説明し、安楽死に必要な手続きについて話した。すべてが整った時、雅也は自分の人生の最終章を迎えることを決めた。

その日、病室は静まり返っていた。雅也は、自分が大切に思う人たちに別れを告げる時間を持った。家族や友人たちの涙を見ながら、彼は自分の選択が正しいものであることを信じた。

「お前は自由だ。これからも俺のことを忘れないでくれ」と雅也は言った。大輔は涙をこらえながら、力強く頷いた。

「ずっと忘れないよ。俺たちの思い出は消えない。お前が選んだ道を、俺は支持する。」

その言葉が、雅也の心に安らぎをもたらした。彼は自分の選択に自信を持ち、静かに目を閉じた。安らかな心で、彼は最期の時を迎えた。

その後、大輔は雅也との思い出を胸に、彼の選択を尊重しながら自分の人生を歩んでいくことを決めた。雅也の生き方と、その選択の重みを心に刻んで。

命の選択は、時に痛みを伴う。しかし、それは彼にとっての解放でもあった。人生の中で、自分の意思で選ぶことができたその瞬間こそが、彼にとっての幸せであった。