生きる

春秋花壇

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ずっと監視されている

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「ずっと監視されている」

窓の外に目をやると、青空が広がっている。しかし、私の心には重く、陰鬱な霧がかかったままだ。何かがおかしい。最近ずっと、誰かに見られているような感覚が離れないのだ。部屋に一人でいるときも、街を歩いているときも、その視線は常に私を追っている。

数か月前から、突然始まったこの感覚。最初はささいなことだった。パソコンの画面を見ていると、ふと背中に寒気が走った。振り返っても誰もいない。ただの疲れだろうと、最初はそう思っていた。

しかし、日が経つにつれ、その感覚は次第に強くなっていった。誰かにずっと見張られている——そう思うたびに、背筋が凍るような恐怖に襲われる。特に夜になると、その感覚は鮮明になり、私はカーテンを閉め、部屋の隅で身を縮めて過ごすようになった。

「誰かが見ている……」

そう心の中でつぶやくが、その「誰か」が誰なのか、どこにいるのかは分からない。確信が持てないまま、ただその恐怖に飲み込まれていく。

ある日、いつものように会社に出勤すると、同僚の佐藤が私を不思議そうに見つめてきた。

「最近、なんか元気ないけど、大丈夫か?」

その一言に、私は心の中で激しく動揺した。佐藤が私を見つめている——もしかして、佐藤が私を監視しているのか? いや、そんなはずはない。だが、心の中でその疑念は徐々に膨らんでいった。

「いや、大丈夫……ちょっと疲れてるだけだよ」

そう答えたものの、私はその日一日、佐藤の動向が気になって仕方なかった。彼が机で仕事をしているときも、誰かと話しているときも、私のことを横目で見ているように感じられた。視線の先にいるのは、いつも私だ。

仕事が終わり、家に帰ってもその疑念は消えなかった。部屋の電気を消し、暗闇の中で静かに耳を澄ます。周囲の物音に敏感になり、窓の外から聞こえるかすかな音や、隣室からの生活音までもが不安を煽る。

「もうダメだ……誰かに見られている……」

そう思った私は、ついに一つの行動に出た。翌日、職場を早退し、家に戻ると、すぐにパソコンを開いて調査を始めた。「監視」「ハッキング」「盗撮」——様々なキーワードでインターネットを検索し、自分がどうやって監視されているのかを突き止めようとしたのだ。

最初に思いついたのは、カメラだ。パソコンやスマートフォンにはカメラが内蔵されている。もしかすると、それが私を監視しているのではないか? すぐにパソコンのカメラをテープで覆い、スマートフォンもカメラを隠した。これで少しは安心できる——そう思ったが、監視されている感覚は消えなかった。

次に疑ったのは、家の中に隠されたカメラだ。もしかすると、誰かが私の家に侵入し、こっそりカメラを設置したのかもしれない。私は家中をくまなく調べ、壁の隅や家具の裏、天井の照明器具の中までも確認した。しかし、何も見つからなかった。

それでも、視線の感覚は止まらない。むしろ、日を追うごとにその感覚は強まり、夜も眠れなくなった。ベッドに横たわっても、目を閉じることができない。何かが、私を見つめている——その恐怖は現実となり、次第に私の心を蝕んでいった。

ある晩、限界に達した私は、ついに病院を訪ねることにした。心療内科の受付で震える手を押さえながら、何とか自分の状況を説明した。

「最近、誰かに監視されている気がして……ずっと、視線を感じるんです」

医師は静かに私の話を聞き、しばらくの間黙って考えたあと、優しくこう言った。

「その感覚、もしかすると『被害妄想』という状態かもしれません。私たちの心は、強いストレスや不安が積み重なると、現実と幻想の区別がつかなくなることがあります。まずは、その不安の根本的な原因を探り、少しずつ対処していきましょう」

その言葉を聞いたとき、私は一瞬、怒りが込み上げてきた。被害妄想? 私が感じているこの視線は現実だ、妄想なんかじゃない! そう反発しそうになったが、すぐにその怒りは収まった。なぜなら、私自身も薄々気づいていたからだ。自分がどこかおかしくなっているのではないか、ということに。

医師との話し合いの中で、私は自分が抱えている不安や孤独感について少しずつ語り始めた。会社でのプレッシャー、人間関係の難しさ、そして何よりも、自分が誰からも理解されていないという感覚。それらが積み重なり、私を次第に追い詰めていたのだ。

治療が始まり、数週間が過ぎた。最初は何も変わらないように感じたが、少しずつ私の中にある恐怖が和らいでいくのを感じ始めた。薬の効果もあったのだろうが、それ以上に、医師やカウンセラーと話すことで、自分の不安を少しずつ解きほぐすことができたのだ。

ある日、私はふと気づいた。視線の感覚が、前よりも薄れていることに。それでも完全に消えたわけではないが、少なくとも以前ほど強く感じることはなくなっていた。そして、私は少しだけ安心することができた。

「大丈夫、これは現実じゃない。ただ、心が作り出した幻想なんだ」

そう自分に言い聞かせながら、私は少しずつ、日常を取り戻していった。職場にも復帰し、仕事に集中することで、不安を紛らわせることができた。まだ完治には時間がかかるかもしれないが、少なくとも私は一歩前に進んでいた。

夜、ベッドに横たわり、静かに目を閉じる。周囲の音が遠のき、視線の感覚も次第に薄れていく。私は深く息を吸い、吐き出した。

「誰も、私を監視していないんだ」

その言葉を信じることができる日が、少しずつ近づいている気がした。








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