生きる

長い待ち時間

「長い待ち時間」

哲子は、疲れた体を布団に横たえたが、眠れなかった。仕事のストレスが頭の中でぐるぐると巡り、嫌なことばかりが思い出される。上司に叱られた場面や、ミスを連発した日のこと。新しい職場にまだ馴染めていない自分が情けなくて、神経が高ぶり、どんなに疲れていても眠ることができなかった。

「このままじゃ、いつか倒れてしまう……」

そう感じた彼女は、思い切ってメンタルクリニックを予約しようと決めた。駅前の評判の良いクリニックならきっと助けてくれるはず。そう思い、電話をかけた。しかし、返ってきたのは冷たく響く言葉だった。

「初診の予約は、1カ月後になります」

「1カ月後……」

その瞬間、哲子の心はどんよりと重くなった。今、すでに限界が近い状態なのに、さらに1カ月待たなければならないのか？一体、待っている間、どうすればいいのだろう。彼女はその場で立ちすくんだ。これ以上、誰にも頼れないという現実が、胸に重くのしかかる。

待ちの日々
その日から、哲子のカレンダーには、大きく「初診」の文字が書かれた。1日1日が重苦しく、朝を迎えるたびに「あと何日だろう」と指折り数えて待った。会社では、相変わらずミスをしては上司に叱られた。まだ職場に友達もいないため、相談できる相手もいない。周りの人たちは楽しそうにランチに出かけていくが、彼女は一人、デスクでため息をつく。

「どうして、こんなに自分だけがうまくいかないんだろう……」

不安と孤独が哲子を襲った。眠れない夜は続き、日中もぼんやりとした頭で仕事をこなす。上司の目が冷たく感じられ、心の中では「クビになるのではないか」という恐怖が渦巻く。誰にも言えず、一人で抱え込んでいる感覚が、さらに彼女を追い詰めた。

「早くクリニックに行きたい……」

だが、カレンダーに書かれた「初診」の日まで、まだ数週間はあった。

ようやく訪れた初診日
1カ月が過ぎ、ようやく迎えたその日。哲子は緊張しながらクリニックの待合室に座っていた。周りには同じように疲れ切った顔をした患者たちが並んでいる。待つ時間も、なぜか長く感じられる。

ようやく名前が呼ばれ、診察室に入った。

「どうされましたか？」

優しそうな医師の顔を見た瞬間、哲子の目には涙がにじんだ。ずっと一人で抱え込んできた苦しさが、溢れ出しそうだった。

「仕事のストレスで眠れなくて……毎日が辛いんです」

哲子は声を震わせながら、自分の状況を説明した。医師は静かに頷きながら話を聞いてくれた。その態度に少しずつ心がほぐれていくような気がした。

診断の結果は「うつではないが、その一歩手前」ということだった。哲子は安堵した。まだ完全に深刻な状態ではないということが、彼女にとって救いだった。医師は睡眠薬を処方してくれた。これで少しは眠れるかもしれない、と彼女はほっとした気持ちでクリニックを後にした。

少しずつの改善
その後、睡眠薬のおかげで少しずつ眠れるようになった。まだ完全に元の状態には戻っていないが、朝を迎えることが恐ろしくなくなっただけでも大きな進歩だった。仕事も少しずつ慣れてきた。ミスをする回数は減り、上司の目線も以前ほど厳しくは感じなくなった。

しかし、哲子はあの1カ月の苦しい待ち時間を思い出すたびに、何かが間違っているのではないかと感じていた。なぜ、こんなにも多くの人がメンタルの不調に苦しんでいるのに、初診の予約を取るのがこんなにも難しいのか？もっと早く相談できる仕組みがあれば、彼女もあの辛い日々を過ごす必要はなかったのではないか。

ふと、哲子は「オンライン診療」という言葉を思い出した。もしかしたら、これが解決策になるのではないかと考えた。家から簡単に診察を受けることができるなら、あの長い待ち時間も軽減されるかもしれない。

次のステップ
哲子は、再診の予約を取るためにクリニックのウェブサイトを見ていた。その時、ふと「オンライン診療受付」の項目に目が留まった。これからは、もっと手軽に相談できる手段を使っていこうと思い、彼女は次のステップに進む決意をした。

「誰もが、もっと気軽に心のケアを受けられる時代が来ればいいな」

哲子はそう感じながら、また新しい一歩を踏み出したのだった。