生きる

春秋花壇

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記憶の彼方に

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「記憶の彼方に」



桜井美佐子は昔から親しんでいた小さなカフェで、友人たちと賑やかに会話を楽しんでいた。歳月が流れ、彼女は年齢とともにシワが増え、髪は白髪が混じるようになった。だが、その目はいつも明るく、知的な輝きを持っていた。だが、最近、彼女の家族は変化を感じ始めていた。美佐子が以前のように物事を自分で選択し、責任を取ることが難しくなってきたのだ。



美佐子の娘、由美は母の変化に心を痛めていた。特に、母がアルツハイマー病を発症してからは、彼女が以前のように自分の意思で選択することが難しくなり、家族はその対応に苦慮していた。

ある日の午後、由美は母と一緒に病院へ行った。医師からは、アルツハイマー病が進行しており、美佐子が「わたしがわたしとして選択し責任を取る」ことがますます難しくなっていると説明された。

「母がどのように対応するのが最善なのか、わからないのです」と由美は涙ながらに話した。

医師は優しく答えた。「アルツハイマー病が進行することで、自分の意思や選択が難しくなるのは仕方ないことです。大切なのは、家族がどのようにサポートし、母ができる限りの自尊心を保てるようにするかです。」



美佐子が家に帰ると、彼女は以前と同じように家の中を歩き回り、何かを探している様子だった。しかし、彼女の動きにはどこか迷いがあり、時折立ち止まっては困惑した表情を見せることが増えていた。

由美はその様子を見て、自分の役割を果たすことができる限り母をサポートしようと決心した。彼女は日々、美佐子が快適に過ごせるように環境を整え、必要な支援を提供することに尽力していた。



ある晩、美佐子は居間でテレビを見ていた。突然、彼女は画面に映る古い写真に目を奪われ、「これ、どこで撮ったの?」と疑問を口にした。その写真は家族旅行のものだったが、美佐子はその旅行のことをまったく覚えていないようだった。

由美はその質問に答えながらも、自分の心の中で母の記憶が徐々に消えていくことに深い悲しみを感じていた。「これは私たちの家族旅行の写真よ、お母さん。昔、みんなで行ったんです。」

美佐子は頷いたものの、目には戸惑いの色が浮かんでいた。彼女がかつての思い出を思い出すことができないのは、由美にとって非常に辛いことだった。



時間が経つにつれて、美佐子の状態はさらに悪化していった。彼女は自分の選択や決定をすることが難しくなり、時折混乱することが多くなった。由美は、自分がどのように対応すればよいか迷うことが多かったが、母ができる限り快適に過ごせるように心がけていた。

ある日、美佐子が突然、家の中で迷子になってしまうという事件が起きた。由美が必死に探し回った結果、彼女は近くの公園で座っている母を見つけた。美佐子は何も言わず、ただ静かにベンチに座っていた。

「お母さん、どうしたの?」由美は心配そうに声をかけた。

美佐子はゆっくりと顔を上げ、涙を流しながら答えた。「私、どうしてこんなことになってしまったのか、自分でもわからないの。」

その言葉を聞いた由美の心は痛んだ。美佐子が「わたしがわたしとして選択し責任を取る」ことができない状態になってしまったことは、由美にとって非常に辛い現実だった。



由美は、母ができる限り尊厳を保ちながら生活できるように支援し続けた。彼女は、母が選択することができない状態でも、彼女の意志や尊厳を尊重する方法を見つけるために努力した。

美佐子は次第に、その現実を受け入れていった。彼女は記憶が薄れていく中で、家族との穏やかな時間を過ごし、由美は母の笑顔を少しでも引き出そうと努力し続けた。

美佐子が「わたしがわたしとして選択し責任を取る」ことができない状態でも、由美は彼女に愛情と尊厳を持って接することで、母の最後の日々をできる限り尊重し、温かい時間を提供することができた。それは、愛と支援によって守られるべき尊厳の一部であった。








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