生きる

それぞれの光

それぞれの光

僕の名前は智也、28歳。会社の同僚や上司からは「真面目だけど少し変わっている」と言われることが多い。僕は発達障害、特にASD（自閉症スペクトラム障害）を持っている。周りから見ると、小さなことにこだわったり、社交的でないことが不思議に思われるらしい。でも、僕にとってはこれが普通なのだ。

僕は大学を卒業してすぐに、今の会社に入社した。最初の頃は、仕事のペースがつかめず、何度もミスをした。上司から「もう少し周りを見て、臨機応変に動け」と注意されたが、僕にはその「周りを見て」という感覚がどうにも掴めなかった。僕は目の前の仕事に集中すると、他のことがまったく見えなくなる。それは特性の一部であり、どうしようもないことだった。

会社の飲み会も苦手だった。大勢でワイワイ話すのが難しいし、何を話せばいいのかもわからない。僕が必死で絞り出した話題が、みんなの興味を引かないことも多かった。だから、次第に飲み会には顔を出さなくなった。その代わりに、僕は仕事に集中することに決めた。何かを一生懸命にやることは得意だったから。

ある日、僕が勤める会社に新しいプロジェクトが始まった。プロジェクトチームには僕も選ばれたが、最初は不安だった。メンバーの中には、仕事が早く、要領がいい人たちがたくさんいたからだ。僕は自分が足手まといになるんじゃないかと心配していた。

そんな中、プロジェクトリーダーの山田さんが僕に話しかけてきた。「智也君、君の得意なことを活かしてくれればいいから。無理にみんなと同じようにやる必要はないんだよ」と言ってくれた。その言葉に、僕は少しだけ安心した。山田さんは僕の特性を理解し、受け入れてくれているようだった。

プロジェクトが進むにつれて、僕の持つ特性が役立つ場面が増えてきた。僕は細部にこだわる性格なので、仕様書の誤りやミスを見逃さなかった。誰も気づかないような小さな不具合を発見し、それを修正することで、プロジェクトの質が向上した。そんな僕の働きぶりを見て、山田さんは「君は本当に助かるよ」と言ってくれた。その言葉に、僕は初めて自分の存在が認められたように感じた。

しかし、周りの全てが理解者ではない。ある日、同僚の佐藤さんが「あの人、細かすぎて仕事が進まないよね。ちょっと異常だよ」と陰口を叩いているのを聞いてしまった。僕はその場で何も言えず、ただ黙って聞いていた。自分がマイノリティであるという現実を突きつけられた気がした。

家に帰ってからも、その言葉が頭から離れなかった。「異常だ」という言葉が僕の胸を刺す。どうして僕は普通にできないんだろう？　どうして周りと同じようにできないんだろう？　自分を責める気持ちがどんどん膨らんでいった。

そんな時、ふと、昔読んだ本のことを思い出した。著者もまた発達障害を持つ人で、自分を「異質」として受け入れるまでの苦しみを書いていた。だが、彼は最終的に「自分らしさ」を武器に変えたのだ。僕はその本の中で、「異質であることは、弱さではなく、むしろ強さである」と書かれていた一節を思い出した。

翌日、僕は山田さんに話をした。「僕が細かすぎて、プロジェクトが進まないという声もあります。どうしたらいいでしょうか？」と。山田さんはしばらく考えてから、こう言った。「細かいことにこだわるのは君の強みだ。でも、それがみんなのストレスになるなら、バランスを考えることも大事だね。チームでの調和を意識しつつ、自分の強みも発揮できるように工夫しよう」と。

僕はその言葉に、何か新しい扉が開かれたような気がした。自分の特性を無理に変えようとするのではなく、それをどう活かすかを考えること。僕は、マイノリティとしての自分を受け入れながら、マジョリティと共に生きていく方法を模索し始めた。

プロジェクトが無事に完了し、成果が認められたとき、山田さんが言った。「君がいなかったら、ここまでうまくいかなかったよ」。その言葉に、僕は少しだけ自分を誇りに思えた。

僕はマイノリティかもしれない。でも、それは弱さではない。むしろ、自分だけの強みを持っているということだ。社会の中で「普通」とは何かを問われたとき、僕は自分らしく生きることを選びたい。そして、いつの日か、僕のような人たちももっと自然に受け入れられる社会になればいいと願っている。