生きる

小さな盗人

「小さな盗人」

8歳の悠人（ゆうと）は、活発で好奇心旺盛な男の子だった。学校が終わると、彼は友達と遊びに行ったり、家の周りを探検したりして過ごしていたが、最近、彼の両親、幸子（さちこ）と健一（けんいち）は、息子が物を持ち帰ることが増えていることに気づいた。

初めは小さな物、例えば、学校で落ちていた鉛筆や、友達の家から無断で持ってきたおもちゃだった。しかし、次第にその範囲は広がり、家の中に何かしらの物が増えていくのを見て、両親は心配になった。

ある日、悠人が帰宅すると、両親は彼を呼び、穏やかな口調で話しかけた。

「悠人、これを見てごらん。」と幸子が言った。

幸子は、悠人の部屋の引き出しを開け、そこに隠された様々な物を取り出した。リボン、マグネット、おもちゃの車、さらには他人の名前が書かれた手紙まであった。

「これらの物、どこで見つけたの？」と健一が尋ねた。

悠人は少し驚いた顔をしながらも、答えた。

「友達の家や、学校で…見つけたんだよ。」

両親は困惑した。彼の言葉を聞く限り、物を取ったことを特に悪いことだとは思っていないようだった。健一は深く息をつき、冷静に説明した。

「悠人、それは『取られてはいけない物』というものなんだ。人の物を勝手に持ってくるのは良くないことだよ。」

幸子も続けた。

「私たちが何かを失くしたとき、誰かがそれを取ったとしたら、どう感じると思う？それと同じことをしているんだよ。」

悠人は黙っていたが、両親の言葉が少しずつ心に響いてきた。彼は自分がどれだけ間違ったことをしているのかを理解し始めた。

その後、両親は悠人に対して、物を取ってしまう理由を尋ねることにした。悠人はうつむきながら話し始めた。

「友達の家に行くと、あそこにあるものがすごくきれいで、僕も欲しくなっちゃうんだ。でも、ママとパパに言ったら、どうせ買ってもらえないと思って…」

両親は悠人の気持ちを理解し、彼に物を取るのではなく、自分の欲しいものがあれば、正直に話すように教えた。また、何かを欲しいと思ったときに、自分がどうしてそれを欲しいのかを考えることも大切だと教えた。

それから数週間後、悠人は自分の行動を改める努力を始めた。彼は家の中で、他人の物を勝手に取ることはなくなり、友達に対してもその理由を説明するようになった。両親は彼の変化に気づき、感心しながらも、引き続き彼を支えた。

ある日、学校で悠人は友達のヒロキと遊んでいた。ヒロキが大事にしていたボールが地面に落ちてしまったとき、悠人はそれを見て、自分の手を伸ばすのではなく、ヒロキに「ボールを落としたよ」と教えた。ヒロキは感謝し、二人は仲良く遊び続けた。

悠人の行動が変わることで、彼は周囲の友達との関係も良好になり、両親との信頼も深まっていった。彼は自分の行動に自信を持ち、より良い選択をするようになった。

数ヶ月後、家族は近くの公園でピクニックを楽しんでいた。悠人はその日、家族と共に過ごす時間の中で、楽しさや喜びを感じていた。物を取ってしまう癖もなくなり、彼は新しい趣味に没頭するようになっていた。彼が手に入れるものは、自分の努力や真心から得たものであり、それが彼にとって何よりも価値あるものであると感じるようになった。

両親は、悠人が成長し、より良い人間になる過程を見守ることができて、心から満足していた。彼の小さな悩みと成長が、家族全体の絆を深める大切な経験となったのであった。

終わり

この物語では、8歳の少年が盗癖を抱えながらも、その行動に気づき、変わることができる過程を描いています。親のサポートと理解を通じて、彼が自分の行動を見つめ直し、成長していく姿を物語っています。