生きる

春秋花壇

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見えない友達

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 「見えない友達」

8歳の少年、亮太(りょうた)は、両親と一緒に郊外の一軒家に暮らしていた。彼は明るく活発な子どもだったが、最近、両親は彼の様子が少し変わっていることに気づき始めた。亮太が話す内容が不自然であり、彼が話しかけている相手が誰なのか不明瞭なことが増えてきたのだ。

ある日、亮太がひとりで部屋の隅で話しているのを母親の美佐子(みさこ)が見つけた。美佐子は不安を感じ、亮太に話しかけた。

「亮太、誰と話しているの?」

亮太はにっこりと笑って答えた。

「ママ、僕の友達の『アカネちゃん』だよ。ママも会ってみる?」

美佐子は驚いた。亮太には外に友達がいるはずだが、家の中に一緒に遊ぶ友達はいない。それに、「アカネ」という名前も聞いたことがなかった。

「アカネちゃんって誰なの?どこにいるの?」

亮太は指で部屋の隅を指し示しながら言った。

「そこにいるんだよ。でも、ママには見えないかも。アカネちゃんは僕にしか見えないんだ。」

その言葉に美佐子の胸に冷たい感覚が走った。息子が空想の友達を作り上げることは珍しいことではないが、その「友達」があまりにも現実的で、亮太がそれに深く関わっていることが不安を呼び起こした。

その夜、美佐子は夫の隆(たかし)に相談した。隆も最初は亮太の空想力が豊かなだけだと考えていたが、美佐子の心配が伝わり、真剣に話を聞いた。

「明日、亮太を病院に連れて行こう。念のため、専門家に診てもらった方がいい。」

翌日、両親は亮太を連れて子どもの心の専門医の元を訪れた。医師は亮太としばらく話をし、彼の描いた絵を見た。その絵には、亮太と共に手を繋いでいる少女が描かれていたが、その顔はぼんやりとしたもので、目が描かれていなかった。

医師は静かに説明を始めた。

「亮太くんは、心の中で何かを抱えている可能性があります。この年齢で幻覚や幻聴が現れることは珍しくありませんが、適切な治療が必要です。」

美佐子と隆は、亮太がどこかで感じた孤独や不安が、幻覚という形で現れたのではないかと心配した。医師はカウンセリングと共に、亮太の状態を見守るために定期的な診察を勧めた。

家に帰ると、亮太は再び部屋の隅に座り、誰かと話していた。美佐子はそれを見て心を痛めたが、亮太が落ち着いている様子を見て、あえて声をかけなかった。だが、亮太の話す内容は次第に不安を増幅させるものとなった。

「アカネちゃん、明日も一緒に遊ぼうね。でも、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?誰かに怒られたの?」

その言葉に、美佐子の心は揺れた。亮太の「友達」は、どうやら何かしらの感情を持っているようだった。彼女は夫と再度話し合い、亮太の部屋にカメラを設置して観察することにした。

数日後、録画された映像を確認した美佐子と隆は、亮太が部屋で一人で話している様子を見た。彼の声はとても小さく、まるで誰かに囁くような口調だった。そして時折、亮太は壁に手を伸ばし、何かを掴むような仕草をしていた。

「これはただの遊びじゃない…。亮太が本当に誰かと接触しているように見える。」と、美佐子は震え声で言った。

再び病院へ行き、医師に相談したところ、医師は亮太に安静を保たせ、精神状態を安定させるための治療を提案した。そして、亮太が感じている不安や孤独をしっかりと受け止めることが大切だと伝えた。

しばらくの間、亮太は薬を飲み、定期的なカウンセリングを受けることになった。両親は彼に寄り添い、彼の話を丁寧に聞くよう心がけた。亮太は次第に「アカネちゃん」の存在を話さなくなり、彼の中の不安も少しずつ和らいでいった。

ある日、亮太は母親にこう言った。

「ママ、アカネちゃんはもういなくなったよ。バイバイしたんだ。」

その言葉に、美佐子はほっとした。亮太は再び、現実の世界に戻ってきたのだ。

その後、亮太は少しずつ心を開き、家族や友達との関わりを大切にするようになった。彼はもう「アカネちゃん」のことを話すことはなかったが、家族は彼を見守り続けた。そして、亮太の心が再び揺らぐことがないよう、彼に寄り添い続けた。

終わり

この物語では、8歳の少年が幻覚や幻聴を体験し、それに向き合う家族の姿を描いています。亮太が心の中で感じていた孤独や不安が、彼の「見えない友達」として現れる様子と、それに対する家族の葛藤や支援が物語のテーマです。



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