生きる

春秋花壇

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ダヴィンチ手術の陰と陽

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【ダヴィンチ手術の陰と陽】

神戸市の中央市民病院に勤務する外科医の高橋は、ロボット支援手術「ダヴィンチ」を使いこなす熟練の医師だった。彼はこれまで多くの患者を手術し、その成功率の高さで名を馳せていた。しかし、彼の心にはいつもひとつの懸念があった。

ある日、彼の元に一人の患者がやってきた。70歳を超えた田中という男性で、進行した前立腺癌の診断を受けていた。ダヴィンチ手術が最適とされたため、高橋が手術を担当することになった。

手術当日、手術室はいつも通りにセットされ、ダヴィンチシステムが中央に鎮座していた。その三次元の拡大視野と精密な操作性は、通常の腹腔鏡手術を超える利点を持っていた。田中さんは不安を抱きながらも、これまでの高橋の実績を信じて手術台に横たわった。

手術は順調に進んでいた。ダヴィンチのアームが滑らかに動き、拡大された視野の中で、高橋はまるで自分の手で直接患部に触れているかのような感覚を覚えていた。しかし、突然の緊急事態が発生した。

「出血だ!」

看護師の一人が声を上げる。思いがけず、血管が破裂し、大量の出血が始まったのだ。気腹圧による出血量の少なさは確かにダヴィンチの利点だが、それはあくまで通常時の話だ。

「すぐに対応を…!」

高橋は冷静を保とうとしたが、手元に触覚がないことが彼を苦しめた。通常の手術ならば、指先で出血源を探り当て、すぐに止血措置を施すことができる。しかし、ロボットアーム越しではその感覚が全く掴めない。

「機器を止めて、手動で行く…」

彼は急遽、ロボットから手を離し、通常の方法で手術を進めることを決断した。しかし、この切り替えには時間がかかり、患者の状態は悪化していく。田中さんの血圧は下がり続け、手術室内の緊張感が一気に高まった。

「くそっ…!」

高橋は焦りを覚えながらも、全力で手術を続けた。だが、ロボットアームの切り替えにより、すでに貴重な時間が失われていた。最終的に、何とか出血を止めることができたものの、患者は意識不明のまま集中治療室に運ばれることとなった。

手術後、高橋は深い後悔の念に苛まれた。確かにダヴィンチ手術は優れた技術だが、その高いコストや緊急時の対応の難しさというデメリットが命に関わる状況を生み出す可能性があることを、彼は痛感したのだ。

「先生、これまで何度も成功してきたじゃないですか…」

同僚の医師が彼を慰めるが、高橋の心は晴れなかった。彼は手術の限界を知り、今後の医療技術の進歩と患者の命を守ることの間で、どのようにバランスを取るべきかを真剣に考え始めた。

その後、田中さんは奇跡的に意識を取り戻し、回復に向かっていた。だが、高橋の心には新たな決意が芽生えていた。彼は、これからもロボット手術を続けながら、そのデメリットをしっかりと理解し、どのような状況でも患者の命を守るための技術を磨いていくことを誓ったのだ。

そして、彼は患者の一人ひとりと真剣に向き合い、医療技術の限界を見極めることが、自分の使命であると改めて感じた。








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